世界最高の年初の日本株パフォーマンス
昨年世界最悪の株式パフォーマンスであった日本株が、今年に入ってからは年初来5.7%(ドルベース)と、世界最高の成績となっている。この日本株の高成績が持続するかどうか。私は日本経済の重圧になってきた円高デフレが終焉することによって、日本株高が持続する公算が高いと考える。
2010年はドルの底入れとともに投機の円安が復活する可能性
2009年のグローバル投機においては、ゼロ金利の米国ドルが調達通貨となり、米国からの資金流出が増加してドル安が進行した。しかし米国経済の回復が明確になると、米国ドルによる資金調達のリスクが高まる。そして世界で最も成長力が低くゼロ金利脱却の展望が立たない日本円がドルに代わって投機のファンディング・カレンシー(キャリートレードの調達通貨)となる可能性が強まる。円資金の流出がおき、意外な円安を誘発する可能性が高まると思われる。
日本株一気に劣勢を取り戻す公算
昨年金融危機の影響が最も小さかった日本が世界最大の景気落ち込みとなったのは、円高デフレの悪循環にはまり込んだためである。デフレは生産性上昇の余地が乏しい内需産業、地方経済を痛めた。しかし2010年に円安転換がおきれば、デフレ圧力は大きく緩和されていくだろう。内需産業にも光がさしてくるものと思われる。もちろん世界経済の回復により輸出の鋭角回復が期待できる。輸出主体の製造業の収益は劇的に改善するだろう。日本株式投資においても積極的なリスクテイクが報われる年になるだろう。
失われた20年、成長の喪失
以上の円安転換は、日本の失われた20年脱却の転機になる可能性がある。失われた20年の本質は円高デフレにあり、それが終焉すると思われるからである。
日本の失われた20年の間、デフレにより名目経済規模は全く成長しなかった。図表①にみるように、この間欧米2倍、中国では5倍の名目経済規模の拡大があったわけで、日本の停滞は際立っていた。また、パイが成長しなかったうえ所得の配分が、非生産階層(年金生活者、財政危機にある産業)で大幅に増加したために、生産に寄与している階層が享受する所得は低下した。労働貢献の対価が減少したわけであるから、モラルは低下し、閉塞感が蔓延した。
真因は円高デフレ
日本はなぜデフレに陥ったのか、日銀主犯説、大幅な需給ギャップ説など、が指摘されているが、最も重要な要素は、円高デフレに陥ったことではないか。1990年代はじめ、日本産業の強烈な競争力と日米貿易摩擦により、日本は大幅な円高を余儀なくされた。当時の購買力平価は1ドル190円程度であったのに、円レートは100円以上まで上昇したので、内外価格差は2倍まで拡大した。日本企業は海外の2倍の高コストを背負わされ、徹底したコスト削減と合理化・生産性の向上を迫られた。この異例の価格差は普通なら円安によって解消されるはずなのに、1990年代、2000年代の日本の場合には円安転換が起こらず、もっぱら日本と海外との物価上昇率格差によってのみ、価格差は解消された。この20年余り、日本には強烈なデフレ圧力が定着し続けたのである。
購買力からかい離した円高は、日本のフリーランチのコスト
なぜ購買力平価(PPP)から著しくかい離した円高が続いたのだろうか。それは一時日本の産業競争力が強すぎ、貿易黒字がとめどなく増加し続けたからである。1990年当時の日本の強烈な競争力の一因には、戦後の日本経済の「ただ乗り(米国の寛大な技術供与、市場開放など)」という側面があったことは確かで、法外な円高は日本のそれまでのフリーランチに対する対価という側面があったと考えられよう。
ただ乗りのコストは払い終わった
もっともようやく膨大な内外価格差(購買力を上回るコスト高)は解消した。2008年のGDPベースの購買力平価は116円と、実際の為替レート2008年103円、2007年117円に収斂している。また日本の突出した産業競争力も韓国、中国などの台頭により、過去のものとなった。日本は15年以上かけて、ただ乗りのコストを払い終わり、もはや購買力平価(PPP)を上回る円高を甘受する必要はなくなった。ここ1、2年長期にわたって続いた円高ペナルティーの終焉を実感させる事態が起きると予想される。
菅発言に市場が反応した理由
藤井氏に代わって財務大臣に就任した菅氏の「円安歓迎発言」に対して市場が敏感に反応したのは、上述の底流の変化があったためと考えられよう。ここに来ての、ドル高転換、円安のスタートは日本のデフレ終息、日本経済の復活をもたらすものとなるかもしれない。