2013年03月06日

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ストラテジーブレティン 第94号

NYダウ工業株史上最高値更新の歴史的意味

昨日(3月5日)ニューヨーク市場において、ダウ工業株が史上最高値を更新した。ビル・グロス、ジム・ロジャース等の皮肉屋による、「異常な金融緩和によるバブルである」という批判は、実体経済と企業業績の顕著な回復により説得力を失っている。 NYダウ工業株新高値更新は新たな繁栄の時代の始まりとも捉えることが可能である。月次ベースで見ると、ダウ工業株は今年2月に既に史上高値を更新していた。過去、80年間で長期低迷の後に最高値を更新したのは、今回を除けば4回しかないが、うち2回(1954年、1982年)は新たな繁栄の時代の予兆、あと2回(1972年、2006年)が高値波乱の一過性株高であった。今回はどちらか、一過性との可能性も全くは排除できないが、むしろ持続性のある株高、長期繁栄の予兆との可能性の方が高いのではないだろうか。   高値更新時期     更新前のピーク          意味 ①1954年4 月の387ドル (1929年8月の388ドルを25年ぶりで)    ⇒ 長期繁栄の予兆 ②1972年11月の1018ドル (1965年12月の969ドルを7年ぶりで)   ⇒ 高値波乱 ③1982年11月の1039ドル (1972年12月の1020ドルを10年ぶりで) ⇒ 長期繁栄の予兆 ④2006年9月の11679ドル (1999年12月の11497ドルを7年ぶりで) ⇒ 高値波乱 ⑤2013年2月の14054ドル (2007年10月の13930ドルを6年ぶりで) ⇒ ? 図表1:NYダウ工業株指数の推移と金価格の上昇 現在の世界株高傾向は、当社がリーマンショック以降4年間にわたって、強く主張し続けてきたことである。その概要は2011年9月26日以降のストラテジーブレティン「債務史観vs生産性史観シリーズ①~⑥」をご覧いただきたい。 ① 2011年9月26日 (53号) 「清算主義を清算せよ」 ② 2011年10月4日 (55号) 「NYダウ工業株100年史、歴史は生産性と信用により発展してきた」 ③ 2011年10月11日 (56号) 「通貨制度の転換期に起きる金価格の上昇、金価格の上昇は何を意味するか」 ④ 2011年10月24日 (57号) 「債務ヒステリーが蒸し返す危機を克服せよ」 ⑤ 2011年12月6日 (60号) 「ユーロトリレンマの解消と危機からの生還」 ⑥ 2012年1月4日 (61号) 「トリプル高は米国経済復活の予兆か」 以下は、2011年10月4日付 ストラテジーブレティン(55号)からの抜粋である。 当社の米国長期繁栄シナリオのアウトラインを提示している。参考にされたい。

債務史観vs 生産性史観、その② 「NYダウ工業株100年史、歴史は生産性と信用によって発展してきた」

債務史観vs 生産性史観、シリーズ第二段として、NYダウ工業株の100年の歴史分析を通して、将来展望の手がかりを探ってみる。過去生産性と信用(債務)がマッチした時に株価は大きく飛躍してきたことが分かる。現在、世界金融危機が深化し、株価下落が自己実現的な同時不況をもたらしかねない状況にある。現在の世界金融大波乱の原因は何か、どのような将来が待っているのか、それら探るためには、歴史の検証が不可欠であろう。

株価と経済の停滞と発展

図表1はNYダウ100年の推移を、対数目盛りにより表示したものである。100年の歴史を振り返ると、米国株式は長期停滞の時期と、それに相次ぐ続く急上昇の時期が繰り返されてきたことが明瞭である。①1920年までの上昇、②1920年から1934年(または1942年)までの停滞、③1934年(または1942年)以降1972年(または1966年)までの急上昇、④1972年(または1966年)から1982年までの停滞、④1982年から1999年までの急上昇、⑤1999年以降の停滞ある。現在は⑤の長期停滞の末期(出口?)にある、と考えられる。

関門となる100、1000、10,000ドルの大台

奇妙なことだが、過去の長期停滞は、ダウ100ドル、1,000ドル、10,000ドルの大台に到達した時点で始まり、その大台を完全に離れるのに10~20年の時間がかかっている。そして一度大台を離れると、NYダウは一気に10倍に上昇すると言うパターンが、繰り返されてきた。我々の関心事は次の2点に尽きるだろう。第一は過去100年間で2回あった10倍の長期株価上昇は何によってもたらされたのか、そしてそれは今後も繰り返されるのかであり、第二の関心事は、現在はどのような局面と位置づけられるのか、である。

金価格との相関

詳細な検証は経済史の専門家に委ねなくてはならないが、さし当たっての大枠の見当だけはつけられるのではないだろうか。長期停滞から脱して株価が急上昇を開始した1930年代後半~40年代初頭、と1980年代初頭、共通して起こったことは、金価格の上昇である。そして金価格の上昇はその後の長期株価上昇のさきがけとなった。

繁栄の3条件-Ⅰ、地政学レジーム

どのような条件がそろった時に米国株価の長期上昇が起こったのだろうか。過去を振り返ると少なくとも3つの条件が伴っていたことが伺える。概略を図表2に示す。第一は地政学レジーム、第二は技術革新に基づく生産性上昇(=供給力の増大)、第三は需要創造メカニズムとしての通貨制度である。まず第一のレジームについて。経済の繁栄には自由な通商と金融を保障する政治基盤が不可欠である。そうしたレジームとして1940年代以降米国が西側世界の支配者となるPax Americanaが大きな前提となった。また1980~90年代の繁栄の背景には、共産圏の崩壊による、米国覇権の世界制覇があった。Global standard と言う名前のAmerican standardは世界唯一の超大国と言う米国の圧倒的プレゼンスの下で可能となった。

繁栄の3条件-Ⅱ、生産性革命

第二に技術革新が、生産性を飛躍的に高め経済成長を促進したことに異論の余地はあるまい。1940~60年代に花開いた米国での高度消費社会は石油エネルギーの基盤の下で、電気・自動車が象徴となった。また1980年代以降の半導体技術革新に起因する情報化革命がビジネスモデルを一新した。もっとも技術革新と生産性の向上は、供給力の増大を必然的にもたらす。仮に需要が成長しなければ、生産性上昇=供給力増大は、過剰生産と失業増加に帰結する。実は生産性上昇は諸刃の剣であり、それのみでは経済は繁栄できないのである。

繁栄の3条件-Ⅲ、需要創造メカニズム、通貨制度

そこで第三の需要創造のメカニズムの創設が必須となる。1930年代の大恐慌は、まさに増大する生産能力と需要不足とのギャップによって起こった。経済手段による需要創造のメカニズムが通貨制度の発明、信用の拡大であろう(戦争や植民地支配はそうした需要不足に対する政治的=帝国主義的対応に他ならなかった)。実際、1940~60年代の繁栄の背景には、管理通貨制度の導入があった。金本位制の下での金保有による制約されたマネー供給が、自由になったために、経済が求める最適マネーが供給されるようになり、信用の増大が需要創造メカニズムとして働いた。また1980年代以降は、それまで米国の金保有に制約されていたグローバルマネー供給が、ニクソンショックによって制約を解き放たれ、いわゆるペパードルの垂れ流しが起こった。それは過度の投機やバブル形成と言う副作用はあったものの、日本を筆頭にアジア諸国を工業化させ、世界経済の成長率を著しく押し上げた。 図表2:株式100年で見る近代世界史

今後3つの条件はどうなるのか

このように過去の繁栄期においては、少なくとも3つの必要条件がそろった時に経済が飛躍し、株価が長期上昇をしたことが明らかであるとすれば、今後はどうなるのだろうか。地政学レジームと言う点では米国の一極支配から「世界共和国」と言うべき統治形態に移行していくのではないだろうか。アメリカは世界の覇権国から「世界共和国(Global Commonwealth)」のリーダーへと変質しようとしている。良くも悪くも米国価値観を押し付けようとしていると受け取られたブッシュ前大統領のアメリカから、オバマ大統領のアメリカへの転換である。オバマ大統領は初の黒人大統領であるだけではなく、核廃絶の呼びかけ、自制的リビア攻撃、イスラエルに対する1967年以降の占領地返還要求など、著しく国際世論に配慮した政策にシフトしつつある。なぜアメリカが変質しようとしているか、3つの要因が指摘される。第一は米国経済の相対的地盤沈下・新興国の発言力の高まり、第二に米国の価値観と制度の世界普及が鮮明になったこと、第三に米国が世界新時代の潮流であるフラット化・分散化・開放化の技術変化、制度変化を主導していること、である。つまり米国は「世界共和国(Global Commonwealth)」の実現により国益を貫徹しようとしているのである。それでは「世界共和国(Global Commonwealth)」の理念として共有されつつある事柄とはどのようなものか。①民主主義、人権擁護、②市場経済、資本主義、③インターネット環境への対応、適用、フラット化、④地球環境の保全、⑤Global Governance の発揮(世界各国の夜警国家化、治安権力化)などが骨格となるアジェンダではないか。各国政府は「世界共和国(Global Commonwealth)」の理念遂行を、分担して担う主体となりつつある。 第二の技術革新、生産性増大と言う点では、インターネット技術・文化・経済様式の発展、脱石(原子力)新エネルギー革命が展望される。またグローバリゼーションにより引き続き着実な生産性の向上が期待できよう。そこで問題となるのは第三の需要創造のメカニズムの創設である。従来の信用方式はサブプライム危機、ギリシャ危機との相次ぐ金融危機により、機能しなくなりつつある。そして、第三の通貨・信用システムないしは他の需要創造のメカニズムが発見される時に、経済・雇用と株式は再度大きく上昇する時代に入るのではなかろうか。金価格の上昇とそれをもたらしたFRBの量的金融緩和はそうした新時代金融通貨制度の生みの苦しみを示唆しているのかもしれない。 このように考えると現在は、1999年から続いている長期停滞の最中か出口近辺に位置している可能性が強い、と考えられる。ギリシャと欧州の金融情勢、米国住宅問題と家計のデレバレッジ化などの過去からの負の遺産を消化しながら上述の3条件がどのようにそろえられて行くのか、予断は許されない局面にあると言える。

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