2010年02月12日
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ストラテジーブレティン 第6号
ギリシャ危機、ここがロードスだ! ここで飛べ!!
EUの覚悟が試されている
ギリシャ危機の現状は、ギリシャの寓話イソップ物語の挿話がぴったりの局面である。イソップ物語の中に、『ある男が、「俺はロードス島でならオリンピック選手も及ばないジャンプができる」と自慢した。それを聞いた人が言った。「Hic Rhodus hic saltus.(だったらここがロードスだ。ここで跳んでみろ)」』という挿話である。この場で発揮できないのなら本当の実力ではない、今こそ本領が試される、と言う格言である。
ギリシャ危機はギリシャの膨大な政府債務(対GDP比13%、経済収斂基準3%の4倍、累積債務は対GDP比120%)および膨大な対外経常赤字(対GDP比10%)により、ギリシャ国債に債務不履行の懸念が高まり、リスクプレミアム(欧州最優良のドイツ国債金利に対する上乗せ金利)が急上昇していることにある。昨年末S&Pはギリシャ国債の格付けをBBB+に引き下げたことで、市場は一気に不安定化した。政府債務の大半を海外に依存するギリシャにとって、債務不履行、国家財政破綻の淵にあると言ってもよい。EU合計のGDPの2%に過ぎないギリシャがこれほどまでに注目されているのは、ギリシャ危機の制圧に失敗すれば事態はポルトガル(財政赤字対GDP比7%、経常赤字対GDP10%)、スペイン(同10%、5%)、アイルランド(同12%、2%)等に伝染すると懸念されているからである。
緊縮財政による景気悪化、EU離脱、ギリシャ支援の3つの可能性
3つの可能性が考えられる。①厳しい緊縮財政により自助努力で不安を解消する、②財政膨張を続けユーロから離脱し通貨を切り下げる、③ECB、IMF、個別国(ドイツ・フランスなど)による金融支援を受け危機をしのぐ、である。このうち①はさらなる景気の悪化を招き傷口を広げる、②は欧州通貨統合のひび割れ・崩壊への序章となる、ということで、選択肢には入らない。つまり、欧州通貨統合を維持するには、ギリシャ救済が不可欠なのである。
ギリシャ支援は財政自主権を弱め、EC結束を強化する
ギリシャを放置しEUの結束を弱体化させるか、ギリシャの救済によりそれを避けるか、ユーロ中核国は覚悟を試されている。もし後者なら、支援との見返りにギリシャの財政政策は支援国(EUやドイツ、フランスなど)の監視下に置かれることなになるだろう。それはまさしく正命題(テーゼ)、反命題(アンチテーゼ)、合命題(ジンテーゼ)のプロセスによる事態の根本解決に道を開くものとなる。ユーロの根本陥穽は通貨・金融政策が統合されているのに、財政の独立性が維持されていることにある。ギリシャ問題は通貨の統合性を取るか、財政の自立性を取るかの選択をEU諸国に迫っているものと理解できる。今こそ本領が試される。
ここに至って、結論は明白である。欧州通貨統合を死守せざるを得ない以上、財政自主性を弱めていくしかない。ギリシャ危機はEU諸国の財政自主権を弱めることで、一段とEUの結束を強めることとなるだろう。世界景気が回復途上にあることは明白なので、支援が明確になれば市場は落ち着くだろう。他国への伝染の可能性も低いと思われる。
辻褄の合わない市場論理、テクニカル調整の後リスクテイク復活へ
時として市場は矛盾した口実を平気で語ることがある。今はやりのソブリン・リスクはその典型であろう。ギリシャや欧州新興国の債務不履行懸念が高じて債務漬けの主要国政府の返済能力が議論されている。国債格付けの引き下げが日英のみならず米国でも取りざたされ、それが米国景気腰折れ説の根拠となっている。しかし事態の展開を見るとギリシャ危機はユーロの下落、ドル相場の上昇と米国長期金利の低下をもたらしているのであり、米国景気には何らマイナスには作用していない。欧州周辺国のリスクを米国政府の資金調達リスク(日本政府も)に強引に結びつけるのは、大きな誤りである。米国ファンダメンタルズの改善を軽視し非論理的な売り材料が喧伝されているのは、市場がテクニカルな調整の口実を求めている、と言うことであろう。いや、ヘッジファンドのトレーディングの口実なのかも知れない。
つまりテクニカルな市場調整の後、ファンダメンタルズに基づいた相場回復が続くと考えるべきではないだろうか。我々の当初からの主張『2010年の米国経済の回復と世界株高、ドル高・円安への為替トレンドの転換』は不変である。そうなると日本株式にフォーカスがあてられてくるだろう。