2011年04月18日

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ストラテジーブレティン 第43号

Risk on の小休止、次の一手はクローバル投資家の日本株か

Risk on の小休止

世界的に株価上昇一服の状況である。東日本大震災後の急落からの回復が一服し、リスクテイクの小休止場面に入っている。ただ新興国の株価は堅調で、投資家がリスク回避に全面的に舵を切ったわけではない。懸念として挙げられている、①財政赤字、②原油価格などインフレの高進、③中東情勢など地政学不安、④日本の原発の帰趨などは、どれも新規のものでなく、更に不安が深化しているわけでもない。

リスクテイク、投資対象難は続く

唯一最大の懸念は、米国金融緩和政策の変更(QE2の出口)が与える影響であろう。警戒派の最右翼であるPIMCOのビル・グロス氏は、QE2の終焉が米国国債売りに繋がるとみて、米国国債の組み入れ比率を引き下げ、代わりに現金(短期国債)を引き上げた、と伝えられる(ファイナンシャル・タイムズ紙)。つまりイールドカーブのスティープ化を想定しているわけだが、それはリスクテイクにとってネガティブではない。グロス氏のシナリオによれば、金融機関の利ざやはさらに拡大する上、金融引締めが緩慢であることが想定されていると見られるからである。警戒派のリーダーもリスク回避(risk off)のポジションを遂行する状況にないことは、今後一段とリスクテイクが促進される場面が来ることを示唆している、と言える。金融引き締めが、金利の急騰と市場の混乱を招いたのは1994年のメキシコ通貨危機の時であるが、今回はそれが繰り返される可能性は小さいだろう。金融緩和からの出口が注意深く緩慢なものである可能性が高く、市場のリスクテイク心理に大きな影響を及ぼすとは考えにくい。(Bulletin 40号「過度の悲観修正が招く国債売りパニックの可能性 ~日本株にはプラスに作用~」2011年2月22日を参照)

「グリーンスパンの謎」=goldilocks scenarioの再現の可能性大

米国景気回復持続はより確かとなり、米国住宅価格の底入れが始まるだろう。米国の信用創造も、ビジネス向け貸し出しが増加に転じ始めた。年後半に最初の利上げもあり得るが、インフレリスクは抑制されており、継続的利上げの可能性は小さい。長期金利の上昇は限定的になると見られる。それはまさしく好景気で企業収益が好調なのに市場金利が上昇しないという好都合、「グリーンスパンの謎」=goldilocks scenarioの再現である。既に2010年初頭より米国の名目成長率は3%台で推移する長期金利を上回り続けており、リーマンショックで一時途絶えた、「グリーンスパンの謎」が定着しつつある。我々はこの状態が持続する可能性が高いと考えている。それは世界的リスクテイクの好環境が続くということである。(なぜ「グリーンスパンの謎」が再現しつつあるのか、その意味とは何かは、投資ストラテジーの焦点290号「QE2の衝撃、資産価格を照準にした金融政策の新時代」2010年11月4日を参照)

日本株はグローバル投資の処女地

潤沢な投資資金、リスクテイク意欲の増加が予想される一方、投資対象は大きく限定されている。米国株もかつてほどの割安感はなくなった。今やグローバルリスク資産の処女地となっている日本株式の出番が待たれる。日本株式は、①リーマンショック後の世界株価回復に大きく出遅れている(超円高とデフレ再現のため)、②バリュエーションから見て著しく割安(詳述は避けるがPBRは世界最低、リスクプレミアムは世界最高)、等から震災後の懸念要因がなくなれば、投資対象に飢えている世界の投資家の絶好の標的になるのではないか。ここ数カ月の震災復旧努力の雌伏時期を経て、日本経済が2011年度後半から高成長局面に移行することが見えてくれば、デフレも終わり日本株の追撃が始まろう。

大震災は、日本再生の転機になる

震災は日本に20年間続いたデフレを終わらせる引き金になる可能性が強い。その第一の要因は、需給ギャップの縮小、リフレ政策の本格化である。16~25兆円の災害被害の復旧には大型の財政出動は必須である。また、緊急の流動性供給も待ったなしである。平時では小出しであったリフレ政策が本腰を入れて行われようとしている。第二に、震災によって誘導された意外性のあるG7による協調介入は、長期円高トレンドを転換させるものとなるだろう。過去G7の協調介入は5回あったがいずれも協調介入は為替の長期トレンドの転換点となっている。今回も介入はファンダメンタルズに合致しているので、成功する可能性が高い。日本が震災で更なる金融緩和を迫られているのに対して、米国や欧州は金融緩和政策の出口が検討され始め、金利差の拡大が視野に入っている。円安になれば日本の賃金は割安になるので、引き上げの余地が出てくる。それは資産デフレを終わらせるきっかけにもなる。 諦観的悲観論が打ち捨てられ、前に向かってひたむきに努力するという、国民心理の覚醒も見えてきた。痛ましい震災であるが、のちにMar.11が日本再生の転機になったと振り返られる時が来るだろう。

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