2010年12月16日

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ストラテジーブレティン 第37号

2011年日本株本格復活②
2011年、日本が一番報われる資格がある
~低ユニットレーバーコスト、高リスクプレミアムに蓄えられた潜在力~

因果応報、僥倖も不遇も永遠には続かない。中身のない成功は綻び、中身のある失敗は報われる。我々は、ここ数年間の住宅バブルの形成と崩壊、金融大暴落と鋭角回復というまるでジェットコースターに乗ったような経済と市場の急速な浮沈によって、このことを思い知らされた。2011年の戦略を考えるにあたって、中身が伴っていない成功がどこにあり、中身があるのに報われていないケースがどこにあるのかを探すこと、がヒントになる。そして後述するように、2010年末時点で、世界で最も中身があるのに報われてこなかったのが日本である。次いでドイツ、米国があげられる。従って因果応報の観点から2011年に最も注目されるのは、日本、次いでドイツ、米国となる。世界的な供給力過剰と需要不足が進行する中で、新規需要創造は新興国にしか頼れないと考えられていたが、2011年はむしろ逆、成長面でのポジティブサプライズは先進中核国日、独、米に蓄えられている、と考えられる。

欧州ではドイツに順風が

因果応報の観点から最も分かりやすい事例は、欧州経済情勢であろう。過去10年のスターだったアイルランド、スペインなど新興国が住宅バブルの崩壊、高騰し過ぎた賃金、貿易赤字と財政赤字の増大により困難に陥った。欧州新興国の困難は過去10年間の身の丈を超えた僥倖のつけと言える。他方ユーロ発足当初、生産性と賃金が域内で一番高かったために賃金も住宅価格も抑制され続けた中核国ドイツが、著しく筋肉質となりプレゼンスを高めている。ドイツは潤沢な貯蓄に加えて、EU危機による長期金利の低下、ユーロの弱体化、という二重の恩恵を受けて、経済成長率はむしろ高まっている。失業率は低下し、住宅価格が上昇し始め、株価はスペインなど欧州の新興国はもとより、フランス、イタリアの低迷をよそに、一人高値を更新している。

新興国のブレーキ、アメリカのアクセル

この新興国リスクの高まり、先進国の調整完了による成長余力という構図は、EU内にとどまらない。中国、インド、韓国、ブラジルなどでは経済過熱によるインフレリスクの高まり、バブルの増高が成長制約として意識されるようになってきた。金融は引き締められ、通貨は高くなり、資産価格が調整気味となる中で、経済運営は困難になっていくだろう。それに対して最先進国の米国は雇用調整、在庫調整、設備調整は完全に完了した。また住宅価格は急落・底入れしバブルの処理はほぼ終わった。更に家計消費の抑制、貯蓄率の向上により経済実態は著しく筋肉質となっている。企業利益は過去ピークに戻った。オバマ政権が中間選挙結果を受けて大きく共和党に譲歩。ブッシュ減税(富裕者向けも含む所得減税、配当とキャピタルゲイン税減税)の2年間延長、一年限の1,200億ドル所得減税、雇用回復のためのQE2による6,000億ドルの国債購入など極めて積極的なリフレ政策が導入されている。つまり米国では過去の負のつけを払い終わった上にアクセルが全開の状態になっているのである。

日本は不遇の時代、二つのばねを蓄えてきた

このように2011年には独・米にチャンスが巡ってくるように見えるが、過去、独・米以上に中身と成果がアンバランスであったのが日本である。日本は世界のどの国よりも不遇な20年を過ごしてきた。世界繁栄の1990年代から2000年代の20年間はまさに失われた20年であった。このうち1990年代の最初の10年間は戦後日本の過剰な僥倖のつけを払った10年であった。しかし2000年代の10年間は、中身が整っているのに報われてこなかった10年間と言える。

ばね①、高生産性と低賃金(低ユニットレーバーコスト)⇒賃上げの余地大

中身と成果のバランスを診るには、経済の2大投入要素である労働の提供者および資本の提供者がそれぞれに、成果にふさわしい対価を得ているかどうかで観測できる。労働者が貢献にふさわしい処遇を得ているか、は労働の成果が適切に賃金に反映されているかに外ならず、それはユニットレーバーコスト(労働賃金/生産性)によって観察出来る。そして図表5に見るように、ユニットレーバーコストの推移を国際比較すると、欧州ではドイツの圧倒的優位が、世界全体では日本の突出した優位が鮮明である。日本の労働者ほど成果に対する報酬が乏しかった労働者はなかったのである。それは因果応報の見地から、大きな賃金引き上げの余地を持っていることを示唆している。2011年に世界経済の回復と円高のピークアウトがおきれば、日本の低賃金の是正が始まりデフレを終焉させるだろう。

ばね②、企業収益回復と低株価(高リスクプレミアム)⇒株価上昇の余地大

資本の提供者が資本のリターンにふさわしい処遇を得ているか、を診る上での最適な指標は株式リスクプレミアムであろう。リスクプレミアムは資本提供者の要求リターン(a)と資本のコスト(b)との差(a-b)として把握できる。そして簡便法として、(a)を株式の益回り(earnings yield )、(b)を長期国債金利として捉えることができる。この簡便法のリスクプレミアムを米国等と比較すると日本は高水準である。また過去との比較でみても、現在の日本の高リスクプレミアムは空前である(リーマンショック後の乱高下の局面を除き)。リスクプレミアムが高いということは、企業に投下された資本が十分な収益を上げているのに、株価に体現される株主の価値が低く、株主に資本の高リターンがきちんと配達されていないことを示す。そして株価が割安であり、上昇の大きな余地を持っていることを意味する。割安な株価の修正は人々が安全志向を捨てリスクテイクを復活する時に活発化する。2010年10月の日銀による新金融政策(リスク資産の買い取り)は、まさにその背中を押そうとする政策である。

2011年、日本が一番報われる資格がある

このように日本は労働と資本が十分効率的に稼働していたのに、その成果を日本人(勤労者と貯蓄者)が享受することはなかった。それは日本人にとっては極めて不公平(unfair)であったが、①超円高、②過去のバブルの後始末(恒常的資産価格下落)という特殊な時代の産物であった。しかし既に議論しているように(投資ストラテジーの焦点291号など)、そうした時代はほぼ終わった。2011年は日本が過去十数年蓄えてきたばねが、賃金デフレの終焉、株高の開始となって表面化する年になると考えられる。

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