2019年12月18日

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ストラテジーブレティン 第240号

アングロサクソン連合、世界秩序再構築の予感

(1)  トランプ・ジョンソン氏の保守自由主義革命

 

レーガン・サッチャー連携の再来か

1980年代初頭のレーガン・サッチャー時代をほうふつとさせる、異形かつ同質の保守政党リーダーが、大西洋を挟んで再度登場した。トランプ米大統領、ジョンソン英首相である。12月のイギリス総選挙でジョンソン氏率いる保守党が1979年のサッチャー政権以来の大勝、過半数を獲得しBrexitが確実となった。トランプ氏はこれに最大限のエールを送った。

 

両氏の性格、主張は驚くほど類似している。ポピュリストと形容されるが、経済合理性への信頼を強く持っており、左派の大衆迎合とは違う。①破天荒、常識・慣例に従わず、②利潤追求への忠誠・プロビジネス、③自由主義、規制緩和、④形式民主主義・理想主義に対する嫌悪、⑤国益重視、グローバル秩序の改変、⑥リフレ政策、⑦社会的弱者への共感、グローバル化の被害者に寄り添う移民抑制、貿易秩序の再構築・保護主義的外見、等である。

 

保守党大勝により指導力を強めたジョンソン氏は規制緩和、リフレ政策、米国・旧英連邦諸国や日本などとのFTAを推進し、トランプ大統領とともに、形骸化したグローバル秩序の再構築を打ち出すだろう。

 

レーガン・サッチャーが1980、90年代の新自由主義、規制緩和の世界潮流を生み出したように、トランプ・ジョンソン連携が、新しい価値観をもたらし、行き詰まった形式民主主義の世界秩序を立て直していくのではないか。米中の世界覇権をめぐる根底的対決が、米英主導で自由主義国家群を糾合させることになるだろう。

 

両氏の格差より規制緩和・ビジネス優先に重きを置く政策は、時あたかも進行するデジタル・ネット産業革命と親和性が強く、株式市場はそれを歓喜で迎えると思われる。株高が2020年の世界景気回復を確実のものにすると考えられるが、そうなるとトランプ・ジョンソン両氏の保守自由主義思想が正当化され定着していくのではないだろうか。

 

1980年代初頭リベラル派からは忌み嫌われたレーガン・サッチャーの登場が新自由主義の一時代を形成し冷戦を終結させたが、その繁栄を担保したのが1980年から始まった株価の長期的上昇であった。

 

トランプ大統領とジョンソン首相の連携による保守自由主義の登場が、株価上昇によって迎えられるとなると、それは世界経済の新たな繁栄の時代の始まりということになるのかもしれない。

 

 

 

 

(2) Brexitから始まる英国経済の新時代

 

保守党大勝、Brexitで将来展望はクリアーになった

Brexitはハードであってもソフトであっても、大勢は決まった。3年間の議論により企業の対応はほぼ万全、懸念された金融中枢の海外流出は起きていない。法の支配、資本移動・運用の自由、英語などのソフト要素でロンドンに対抗できる金融ハブは大陸欧州にはなかった。メディアのヘッドラインでは英製造業がBrexitのデメリットを受けるとの見方が乱舞しているが、後述するようにそれは逆である。Brexitはイギリスのメリットになる可能性が大きいというものが武者リサーチの一貫した主張である。過去3年半を支配した不確実性は終わり、投資のぺントアップディマンドが高まる公算が大きい。英国のPost EU戦略が描けるようになり、市場でも期待感が強まっている。ロイターは新政権の政策骨格を以下のように報道している。

 

  1. 移行期間を延長せず → 英国は1月31日の翌日からEU離脱の移行期間に入り、この間にEUとの新たな関係について交渉する。現行のルールでは、移行期間を2022年12月まで続けることが可能だが、保守党は選挙公約で、20年末以降まで延長することはないと表明した。20年末までに新たな貿易協定の成立にこぎ着けられない場合、英国は実質的に再び「合意なきBrexit」に直面する。通商専門家は、20年末までの成立は非現実的だとしている。
  2. 2月に予算発表 → 保守党はBrexit後の予算を2月に発表し、医療サービス、教育、警察などの国内問題への支出を増やすと約束している。
  3. 移民 → 保守党は、ポイントに基づく「オーストラリア型」の移民制度を導入する計画。移民総数を削減し、特に職能の低い移民を減らすと約束している。新制度ではEU市民と非EU市民を同等に扱い、大半の移民は求人がなければ英国に移れなくなる。公共サービスの人手不足を埋める移民や、科学やテクノロジーの分野で指導的立場にある移民については特別なビザ(査証)制度を設ける。
  4. 政府の借り入れ → ジャビド財務相は財政ルールを改定し、向こう5年間の支出上限を年200億ポンド増やすと表明。インフラ投資のための借り入れを、現在の国内総生産(GDP)比1.8%から3%に拡大するとしている。
  5. 貿易 → 保守党は、3年以内に英国の貿易の80%を自由貿易協定(FTA)に基づいて行う意向を示しており、米国、オーストラリア、ニュージーランド、日本との協定合意を優先する計画だ。

 (3) EU離脱を正当化する英国産業構造

 

当社は2016年6月23日の英国国民投票直後(6月27日)のストラテジーブレティン164号「分岐点、Brexitであく抜けか・・・・」で以下のように分析したが、それは今もって正しかったと考えている。

 

Brexitのデメリットは英国よりEU側に大きい

Brexitのデメリットは英国よりEU側により大きいと考えられるのではないか。英国の経済構造の特徴は、

  1. 世界で最もサービス業化・脱工業化が進んだ経済(商品輸出世界シェアは3%弱、しかしサービス輸出世界シェアは7%で米国に次ぎ第二位、製造業雇用比率は8%と先進国最低、銀行資産規模対GDP比は800%と世界断トツ)
  2. 世界で最も開放が進んだ経済(対外直接投資対GDP比率は70%と世界最高、同比率はドイツ42%、米国28%、日本16%、また上場企業株式の外人保有も54%と世界最高水準)
  3. サービス輸出と巨額の対外直接投資からの所得で巨額の貿易赤字をカバーすると言う国際収支構造、そして対EUに対しては、巨額の貿易赤字を持ち、それを対英連邦(英語圏諸国)に対するサービス・所得収入で賄っている

という際立った特徴がある。 

 

 

 

 

対EUとの経済関係を要約すれば、英国はEUにとって米国に次ぐ輸出相手国であり、貿易面で巨額の赤字を持つ一方、日本や米国の企業、金融機関などの欧州拠点であり対EU投資で所得を稼ぐという相互依存関係にある、と言える。したがってBrexitとそれに伴う英ポンド安は、対EUとの貿易収支を大幅に改善する一方、EU圏をにらんだ対英投資を冷え込ませ、また英国の国際金融拠点としての競争力をそぐというデメリットもある。このメリット、デメリットの比較において、むしろメリットの方が優る可能性が大きいのではないか。英国の国際金融拠点、国際サービス産業拠点としての魅力度はEUに加盟しているからというよりは、それ以前から備わっている特質に由来すると考えられる。英国で金融業の免許を持っていればEU全域で営めるというシングル・パスポート制度が失われれば一定の影響は避けられないが、相応の激変緩和措置もあり得る。情報の集積、ネットワーク形成等を考えるとフランクフルトなどが、ロンドンに代替する国際金融拠点化するとは考えにくい。

 

 

 

 

英国の世界金融拠点上での競争力は容易に損なわれず

グローバリゼーションの主要素、資本主義、市場経済、民主主義と英語、諸法体系とビジネスプロトコルなどの母国は米国とともにイギリスである。イギリスは米国とともに世界秩序の主柱であり、依然として英連邦の主宰国であり、多様な国際関係の中核国である。英国の国際金融拠点、サービス業拠点としての地位はBrexit後も変わらないのではないか。実際スイスはEUには加盟していないが、EUとの健全なビジネス関係を構築している。

 

英国が反グローバル化するとは考えられない

そもそも、これほどまでの開放的経済大国化した英国が、Brexit が現実化したからと言って、巷間語られるような閉鎖主義、排外主義に陥るとは考えられない。むしろ英国はEU以外の諸国・地域との連携を強め、別な形でのグローバリゼーションの深化を図るのは確実であろう。言うまでもなく、今後の世界経済成長を牽引する地域・国は米国、インド、ASEAN、アフリカなど、むしろ非EU圏にある。大英帝国の遺産である英連邦を基礎とした国際的ネットワークの翼をそれらの国・地域に広げるという選択肢が浮上してくるとすれば、EU側も、離脱後の英国を冷たくあしらうわけにはいかないだろう。ましてイタリア、スペイン、ギリシャなどの南欧諸国が(いかにポピュリズムが台頭しているとはいえ)EU離脱により、現在手にしている信認の高い通貨(ユーロ)と有利な金利を手放すとは考え難い。それは危機に瀕したギリシャのチプラス政権の変身を見ても明らかであろう。このように見てくると、Brexitが、欧州統合の崩壊の始まりとかグローバリゼーションの失敗や終焉等というセンセーショナリズムは極論であることが分かる。

 

 

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