2010年08月04日

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ストラテジーブレティン 第23号

的外れな日本ギリシャ類似論
~日本とギリシャの病は正反対~

ギリシャ危機が誘発した財政キャンペーン

菅首相はこのままでは日本は第二のギリシャになるとして10%消費税増税を提起した。ギリシャ危機は財政赤字削減への注意喚起と言う点では、良いキャンペーン材料であった。大衆は容易に納得した。参院選での民主党敗北にあたっての原因調査でも専門家のコメントでも、消費税増税提起そのものは国民は理解していると報道されている。国民が危機意識を持つことはいいことかもしれないが、過度に悲観的・慎重になっているとしたら問題である。ことに世界株価が出直っている中での日本株の独り負けの原因が、日本人の誤った悲観論にあるとしたら。

同じものは巨額の財政赤字だけ

財政赤字規模が同様に大きいからと言って、日本がギリシャの後を辿るという可能性は考えられない。多くの専門家やメディアが日本とギリシャの類似性を強調するのは、的外れであるとしか言いようがない。日本とギリシャの共通点は巨額の財政赤字だけである。図表2に見るように、財政赤字対GDP比率、政府債務対GDP比率では日本は世界最悪の劣等生、ギリシャの水準を上回っている。

利払い負担日本最小、ギリシャ最大

しかし日本はもっと重要な2つの点でギリシャとは対極にある。第一は政府の利払い負担である。日本の財政の利払い負担(対GDP比率)は世界最低、ギリシャは世界最高、日本の5倍に達する。もちろんその原因は日本の低金利であるが、債務不履行の可能性と言う点では天地の開きがあると言える。しかもギリシャの場合政府債務の80%強が対海外、日本は4%程度と圧倒的に海外依存が低い。今後インフレの復活か円の暴落などがおこり長期金利が急上昇した時の財政破たんが心配されているが、それも杞憂であろう。日本の場合政府利払いが増加した分だけ民間の利子所得が増加する。それは経済成長を大きく押し上げるだろう。日本国民は超低金利と言う形で資産所得を返上し財政赤字の負担を今払っているとも言えるだろう。

ULC・賃金上昇は日本最低、ギリシャ最高

第二のもっと本質的なギリシャと日本の差異は、賃金とユニットレーバーコスト(ULC)にある。過去15年間日本の賃金とユニットレーバーコストは世界最低の伸び(低下)、ギリシャは世界最高の上昇を見せた。ギリシャの財政赤字はギリシャ人が「世界で一番、働いた以上に給料をもらった」為であるが、日本人は「世界で一番、働いたのに給料をもらえなかった」のである。 それが何を意味するかと言えば、経済の病の原因が対極にあると言うことである。ギリシャは「生産性上昇<賃金上昇(⇒過度の需要創造)」、日本は「生産性上昇>賃金下落(⇒需要の過小)」、つまりギリシャは高賃金故の過剰消費、日本は低賃金故の過少消費と正反対の病を抱えているのである。従って対策も当然180度異なる。ギリシャは賃金と消費の抑制のために、財政緊縮・金融引き締めが必要、日本は賃金と消費の増加を促進するために拡張的財政金融政策が必要と言うことになる。 ギリシャ危機がぼっ発したからといって、日本の喫緊の課題「脱デフレ」を差し置いて財政問題をことさら強調するのは、羊頭狗肉<我田引水のそしりを免れない。

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