2019年03月04日
ストラテジーブレティン 第221号
市場の焦点は、オバマ・トランプ経済ブームへ
昨年末の株価急落は、今後の急伸の跳躍台である可能性
昨年10~12月の暴落はまさしくリーマンショック級の下落であった。米国では2018年12月、株式投信・ETFからリーマンショック時を大きく上回る、755億ドルという単月で過去最大の資金流出が起きた。AIトレーディングにより市場が著しく投機化し、これまでの経験則が当てはまらない市場乱気流の中で、一時的に投資家が恐怖に凍えて全く買いの手が出なくなるという異常空間が現出したのである。日経平均のPBR推移は2018年12月末には、PBR1倍以下と、かつてリーマンショック時とアベノミクススタート直前しかない歴史的低水準に落ち込んだ。
しかしNYダウ工業株は昨年10~12月の下落幅、19.4%、5238ポイントに対して3週間で半値戻しを達成、1~2月の2か月では、下落幅の86%を埋め、史上最高値まであと3%というところまで回復している。中国経済悪化の影響をより強く受けると思われている日本の日経平均株価も、昨年末3か月の22.5%、5499ポイントの下落幅のほぼ、5割弱をすでに戻している。
武者リサーチはリーマン級の大不況が来ないとすれば、極端な過剰反応であり、空前の買いチャンス到来とも言えるものである、と主張したが、今年に入ってからの2か月で20%という急騰は、その判断が間違ってはいなかったことを示唆している。市場ではこの株価急反発を見て、そろそろ調整が近い、という弱気が増えている。特に日本株に関しては、いたるところに蔓延している。相場下落で利益を得る「弱気型ETF」の純財産総額が、1月末の1000億円から倍増、過去最高なっている。ただこれほど弱気、警戒論が強いということは、大した調整なしに上昇を続ける可能性の方が大きいのでは。
中国経済底入れから加速へ
懸念されていた米国・中国景気に浮揚感が高まり、2019年後半の世界経済には多くのポジティブサプライズが観測されるだろう。中国では、金融緩和により1月の人民元銀行貸し出しが加速、大きく伸び率が低下していた社会資本融資総量(銀行貸し出し+シャドーバンキング)が上向きに転じた(昨年前半の12%増から12月9.7%増へと低下、しかし1月は10.4%増に)。また昨年の減速の原因だったインフラ投資の伸び率も回復し始めている。何よりも米中貿易戦争の帰趨が不明となり一時域に棚上げされていた投資が、トランプ・習近平合意により、復活することは大きい。不透明感の解消により、先送りされていたペントアップディマンドが景気浮揚感を大きく高めるだろう。いち早くグローバル投資家は対中株式投資を大きく増加させ、上海総合指数は年初(1月4日)の大底から22%上昇、昨年春の急落前の水準に戻っている。さらに、中国需要の回復と在庫不足により、銅をはじめ金属市況が大きく底入れしている。
史上最長景気オバマ・トランプ経済ブームが焦点に
米国では、昨年末の株価暴落によっても、労働市場の好調さは全く損なわれていない。消費者信頼感指数は続伸し続けている。多くのエコノミストが懸念した屋上屋を重ねるトランプ減税が、需給ひっ迫を招き、インフレを加速、景気腰折れのリスクを高めるというシナリオは見事に外れ、むしろインフレ率は低下した。投資増が生産性の上昇率を高め、需給ひっ迫が回避されたためと解釈されている。
いずれ6月には米国の景気拡大は120か月の史上最長となり、トランプ大統領は強い経済を自賛、多くのメディアも再度米国経済の強さの賞賛とその分析にいそしむだろう。市場の雰囲気は、昨年末の株暴落が言わせた悲観論から一気に、この史上最長の景気拡大がなぜ起きたのか、その持続性はどうかといった楽観へとシフトするだろう。FRB元副議長、のアラン・ブラインダープリンストン大学教授はWSJへの寄稿「オバマ・トランプ経済ブーム」(2月26日付)の中で、「景気拡大は、その長さ故には終わらない。だとすれば、何が原因となるのか。過去はインフレ抑制のための利上げ、だがこれは今回は当てはまらない。また原油価格上昇が景気を殺したこともあったが、バーレル90ドル、100ドルの原油上昇も当分は起きそうもない。米中貿易戦争、これも米国の対中輸出は高々米国GDPの1%に過ぎず、半減したとしても米国リセッションには結びつかないだろう。米中貿易合意の可能性が高まっている折、なおさらである。株価クラッシュは単独ではリセッションを引き起こさない。実際、昨年末の暴落も大したダメージを与えなかった。」と述べて、史上最長の経済ブームが当分持続すると主張している。
新元号で日本株加速も
もはや2019年リセッションシナリオは、米中両国においてともに完全になくなった。市場の焦点は、2019年の景気減速から、2019年後半の景気再加速・世界的リスクテイクへとシフトしつつある。ドル円相場の突然の上昇は、リスクテイクマインドの完全復活を示唆している。米国FRBの金融緩和姿勢が一段と強まった年初以降の、特にハト派への転換を決定的にした1月30日のFOMC以降の円の急落の原因は、国際金融市場センチメントの、リスクオンへの急転換としか考えられない。
世界投資環境の好転の下で、日本経済への好影響はほぼ確実であろう。日本企業は国際分業の中で資本財・生産財に特化しており、需要変動の振幅が大きい。特に昨年末の米中戦争による見通し難から、中国の投資需要が蒸発し日本企業受注の急減が一時的にもたらされた。そこからのリバウンドが最も大きくなるのは、日本であろう。加えて国内需要は、新元号に向けた期待の高まりが予想される。
市場乱気流の嵐で迎えた2019年だが、今後経済安心感の高まりとともに、壮大な株高の年となるのではないか。