2018年10月02日

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ストラテジーブレティン 第209号

日米メガ景気、株ブームの現実を直視せよ
~沖縄県知事選挙野党勝利は円安株高要因に

(1) 突出した日米株式好成績、経済実態の好調をもはや無視できなくなった

 

史上最高値街道驀進の米国株式、27年ぶりの高値日本株式

日米株式が長期上昇軌道を驀進中である。米国株式はトランプ大統領が当選して以降一年余りで40%上昇し、2月のVIXクラッシュで12%下落したものの、8月には下落を取り戻し、史上最高記録を更新するなど、世界最高の成績である。日本株式も、米国株式に遅れたものの9月半ばに日経平均が節目の23,000円をクリアして以降急伸し、日経平均は9月末には24,286円とザラ場では27年ぶりの高値を更新した。日米株式の好調さは、下落基調の中国、新興国株式、イタリアの政治不安にかく乱される欧州株式などとのコントラストを鮮明にしている。

 

需給と心理の悪化が好ファンダメンタルズを拒否し続けてきた

要因は一にも二にも好調なファンダメンタルズにある。後述するように日米経済のファンダメンタルズは極めて良好であるのに、市場は長らくそれを無視してきた。需給面・市場心理面でのネガティブ要因が誇張され、投資家のリスクテイクが長らく阻害されてきたといえる。日本株式は東証での空売り比率が8月空前の水準まで高まった。外国人の短期投機家の日本株売りは2月以降執拗であった。利上げによる米国経済失速、米中貿易戦争、新興国危機の深化などにより、世界経済が後退場面に陥るとの想定があったと思われる。

米国においても、ここ数年投信への資金流入はもっぱら債券投信であり、高値警戒感からか、株式投信への資金流入は、ほとんどなかった。しかし2月の突然のVIXショックによっても、景気実態は全く影響されず、悲観的想定はことごとく覆された。

 

悲観論の退場

つまり9月末の米国ダウ新高値、日経平均の27年ぶり高値更新は、劣悪な市場心理と需給の下で達成されたものである。好ファンダメンタルズに市場がとうとう抗しきれなくなったもの、といえる。

 

 

 

 

米国株式は新たな繁栄の時代を織り込み始めた

ファンダメンタルズの好調さは後述するように、史上空前、という要素があり、精査が必要である。それに先行し、株価はいち早く力強い長期トレンドを指し示しているとみられる。米国株式は図表3に見るように、新たな長期上昇の波に入っている可能性が濃厚である。図表4は筆者が30年間追い続けている実質ダウ指数であるが、2009年のリーマンショック以降、新たな上昇波動に入りが明白になってきた。これまで実質ダウ指数は、米国の経済レジームの盛衰を見事に表してきた。

 

1929年までの上昇は金本位制の下での古典的自由主義体制の繁栄、

1930年から1940年代までの下落は、世界大恐慌と第二次世界大戦による古典的自由主義の挫折(否定)、

1950~1960年代は、管理通貨制度、ブレトンウッズ体制の下での、ケインズ体制の繁栄、

1970年代はインフレ、双子の赤字と失業率の急伸というトリレンマの下での、ケインズ体制の挫折(否定)、

1980~1990年代はレーガンの登場によって始まった規制緩和と新自由主義経済の繁栄

2000~2009年はITバブル崩壊、リーマンショックによる新自由主義経済の挫折(否定)、と推移してきた。この新自由主義体制挫折後の混迷が長く続くかと懸念されたが、

2010年以降、新たな上昇の波が明確に始まったのである。これをどのような経済体制と性格づけるべきかは、はっきりしないが、歴史的技術革新、新産業革命の下で米国のインターネット・プラットフォーマーが世界を網にかけて稼ぐイノベーション時代であることは確かである。過去長期上昇の波が20年は続いてきたことを考えると、今はまだ上昇の前半といえるかもしれない。

 

日本も2012年以降、長期上昇相場が続いている

日本株式も米国とともに歴史的上昇の波の中にあるといえる。9月末に27年ぶりでバブル崩壊後の高値を更新し、アベノミクス開始以来の5年間で2.5倍(=年率20%)の長期上昇が未だ継続していることが示された。反論することがばかばかしくなるほどの、悲観論蔓延の中でのこの上昇も、日本経済の新レジームの下で繁栄を、株式市場がいよいよ無視できなくなっていることを示唆する。日本経済の新レジームとは、武者リサーチは、①脱価格競争・技術品質特化、②企業内国際分業体制構築、の2要因による価値創造の仕組みと考えている(ストラテジーブレティン208号など参照)。年率20%のこの上昇の波を延長すれば2018年末27000~28000円、2019年末には32000~33000円、2020年末には38000円から40000円と、史上最高値が、視野に入ってくる。

 

 

 

 

(2) 終わりが見えない、米国の歴史的経済ブーム

 

空前の経済ブーム、否定される「New Normal 論」「Secular Stagnation 論」

アメリカ経済の独り勝ち色がますます強まっている。3~4%の経済成長率が視野に入っているのは先進国の中ではアメリカだけである。失業率は4%を切り、完全雇用をほぼ実現している。低迷していた物価もFRBの目標の2%がほぼ達成された。日本と欧州は、ゼロ金利にもかかわらずインフレ率が高まらず、長期金利の低迷が続き、銀行の利ザヤが極小となり、信用創造が事実上停止する「流動性の罠」に陥ったままである。その中でアメリカだけは、長期金利が上昇に転じ、十分な長短利ザヤの下で銀行貸し出しが増加し、金融機関の収益体質は大きく強化されている。リーマンショック以降、低成長時代に入ったとする「ニューノーマル論」(代表的論者、モハメッド・エラリアン)、「長期停滞論」(代表論者ローレンス・サマーズ)、「繁栄終焉論」(代表論者ロバート・ゴードン)などが喧伝されたがいずれも、事実によって否定されている。

 

 

 

 

新産業革命がもたらした好都合すぎる真実

この好況に終わりが見えない。好況なのに物価も金利も抑制されている、だから景気を殺す金融引き締めも、バブルの崩壊も起きようがないのである。2019年6月にアメリカは10年という戦後最長の景気拡大記録を更新することはほぼ確実であろう。この好都合すぎる現実の根本原因は2年で2.5倍、5年で10倍、10年で100倍という半導体・通信技術の発展にある。技術進化は空前の生産性上昇を労働生産性と資本生産性の双方にもたらし、企業はそれにより膨大な富を生み出している。企業は儲かり、使い切れない資本が金利を引き下げている。また生産性の上昇が供給力の天井を押上げ、物価下落圧力を定着させているのである。

 

適切なトランプ氏の経済政策も寄与

ただ、資本余剰、供給力余剰が放置されれば、深刻なデフレをもたらす、という問題がある。故に余剰資本を有効需要に転換する政策が決定的に重要なのであるが、トランプ政権の積極的財政政策とFRBの市場フレンドリーな金融政策はその要請にぴったり一致している。30年ぶりの抜本的税制改革は5年間で1兆740億ドル、10年間で1兆4560億ドルという史上最大の減税規模である。またその先が法人税減税(35%から21%へ)、投資減税(5年間にわたり設備投資の100%即時償却)など、企業活動支援に集中していることも際立っている。この野放図とも見られる大胆さに対して、財政赤字拡大、格差拡大を招くとの批判も大きいが、当面の経済効果は甚大である。

 

未だリセッションの影は地平上には表れていない

また金融、エネルギー、環境などの規制緩和を実施し、起業家精神を大きく鼓舞した。オバマ政権は政治と企業との癒着を嫌い、規制を大きく強化し企業家心理を抑圧した。アメリカの企業開業率が劇的に低下し、アニマルスピリットが損なわれたが、トランプ政権下でこれが劇的に改変された。企業経営者の景気楽観指数がトランプ大統領当選とともに跳ね上がり、今それが史上最高水準に達していることからも、経済政策の成果がうかがわれる。トランプ政権の積極的リフレ政策は、いずれ需給ギャップを解消させ、やがて物価と金利上昇圧力を高め、景気を転換させるだろうが、その可能性は未だ地平には現れてはいない。

 

米中貿易戦争の影響は限定的、米国総需要を大きく損なわない

米中貿易戦争の影響が懸念されるが、一方的受益者であった中国は全面的譲歩を迫られるだろう。他方米国経済に対する影響は限定的とみられる。関税引き上げは対中輸入価格の上昇をもたらすが、それは、①最終消費価格に転嫁される、②高価格となった中国から他国へ輸入先が変わる、③中国が輸出船積み価格を引き下げる、④米国の総需要が減少する、という4つの可能性を引き起こす。懸念されるのは④の需要押し下げであるが、現在の好況下では深刻にはなるまい。また物価上昇圧力が抑制されている現在の環境下では、玉突きによる消費者価格上昇の影響は大きくはない。ちなみに、対中輸入額2500億ドル×10%=250億ドルの追加関税額は、米国個人消費14兆ドルの0.18%に過ぎない。最大見積もって関税率を25%と考え625億ドルの関税引き上げがなされ、それがすべて米国消費に転嫁されたとしても、それは個人消費額14兆ドルの0.4%である。

 

トランプ氏はほぼ課題を片付けた、中間選挙結果はどんな結果でも大リスクではない

では、来る中間選挙は米国株式の懸念要因になるかといえば、それも限定的であろう。世論調査では民主党支持52%、共和党支持40%と民主党優勢(WSJ9月24日)であるが、それでも上下両院を民主党が制することにはならないであろう。上院の改選議席数は共和党8、民主党26なので、上院の共和党優勢は揺るがない。投票に際して最も重視する項目である経済に関して、69%の有権者が満足していると回答していることは、共和党の優越要因といえる。最も高い可能性は上院共和党多数、下院民主党多数と、それぞれ分け合う形であるが、その場合、懸念されるトランプ弾劾は実現しない。トランプ政権の政策成立は困難になるだろうが、すでに大方の政策は実現しており、大勢影響はないだろう。経済と株価に対する大きなマイナス影響はないと思われる。

 

(3) 空前の高収益、空前の好労働需給、空前の低資金コストの日本

 

潜在的労働者のプールは枯渇間近、2019年賃金上昇率はジャンプしそう

米国同様日本のファンダメンタルズも好調。米国同様戦後最長の景気拡大、失業率は2.4%と史上最低水準かつ世界最低と、労働需給は超ひっ迫の状態である。賃金も、建設、トラック、パート時給などで顕著な上昇がみられる。経団連による大企業(146社)のボーナスが今年夏は8.6%(製造儀容117社では6.09%)とバブル崩壊以降最大の伸びとなった。

 

 

 

 

不動産、食品、エネルギーと値上げ要因目白押し、円安がこれに加われば

ただ依然として本格的賃金上昇に結びついていないのは、労働参加率の上昇により、就業数が増加しているためである。また高給な高齢者が退職することも引き続き平均時給を引き下げている。2018年8月の正規雇用者数は年比95万人と大きく改善した。しかし年初来累計で就業者が109万人も増加し、労働需給ひっ迫が回避されている。まだ潜在的な労働者のプールが枯渇しておらず、それが賃金圧力を抑制している、と考えられるのである。しかし潜在的労働者のプールも、枯渇するのは時間の問題、その暁には、顕著な賃金上昇が顕在化することは確実であり、2019年に入りそれははっきり表れるだろう。インフレ圧力としては、すでに不動産価格の上昇、家賃の上昇が顕著になっている。また連続的大型台風の襲来など天候不順による農産物価格の上昇、原油価格上昇が川下に影響を及ぼすことも想定される。加えて円安進行が輸入価格を押し上げることも考えられる。2019年に入り物価は顕著な上昇を見せるのではないか。

 

 

 

 

設備投資、特に好調

項目別では設備投資の伸びが特に顕著である。2018年4~6月実質GDPは前期比年率3.0%と急伸したが、設備投資の伸びが12.8%と突出してけん引している。人手不足とIT化による設備投資ブームが起こっている。機械受注は米中貿易戦争の影響から外需に頭打ち感がみられるが、好調の内需で十分カバーできるだろう。

 

 

 

 

アベノミクスは見事に成功

中でも圧巻は、日本企業のビジネスモデルの確立に裏付けられた企業収益力の顕著な改善である。企業所得の大幅増加が税収大きく押し上げていることも注目しておくべきである。2020年の東京オリンピック、2019年の新天皇即位などのイベント効果も期待できる。2019年秋の消費税増税は懸念要因であるが、加速力を強める景況改善により、2014年の時のような景気失速は回避されるのではないか。

 

日本経済は力強い長期拡大途上にある。デフレ脱却、アベノミクスの成功が見えてきたといっていいだろう。

 

(4) 沖縄県知事選挙野党勝利の地政学的意味

 

辺野古移設反対派勝利は円安株高要因に

沖縄県知事選挙における野党候補の勝利は、鳩山政権の悪夢を米国に思い起こさせたことであろう。日本は容易に対中融和派の野党が政権を獲得する可能性があること、米国の唯一最大のアジア友邦国日本が寝返ったら米国の世界戦略は瓦解し、そうなったらアジアは中国の勢力圏に包含されること、対米同盟重視を掲げる与党政策を継続させるためには日本国民に資本主義自由経済と米国との同盟関係の恩恵を思い知らせる必要があること、という連想は容易に働くだろう。米国指導者が無知でなければ、対日摩擦、円高圧力の強化などにより、1980年代から1990年代にかけて日本を経済国難に陥れたトラウマを再燃させてはならない、ということは、米国の対日政策の底流に流れているはずである。それを沖縄県知事選挙結果は思い知らせたのではないか。友邦と思っている日本も、経済動向と米国の対日態度次第では容易に、米国から離れうるのである。米中対決が明白になった今、日米同盟を真に必要としているのは日本より、米国の方である。

 

米国は、より日本を大事にせざるを得ない

NATOにおける防衛費負担を問題にしているトランプ政権は、GDP比軍事費1%という主要国中最低の軽武装国家日本に対しても批判を持っていると懸念された。しかし対中最前線基地沖縄を自由に使えるという恩典は、それをはるかに凌ぐことは明白である。中国が日本に秋波を送っているが、米国はそれを上回る友好の意を日本に示さねばならないだろう。その含意は円安と通商協議における対日協調である。安倍氏とトランプ氏の蜜月関係はさらに強まらざるを得ないだろう。

 

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