2018年03月29日
ストラテジーブレティン 第197号
トランプイニシャティブの奏功で情勢急速に安定化へ
~予想される北朝鮮・中国の譲歩と日本株大バーゲン~
東日本大震災から7年、多くの犠牲者を出した未曾有の大災害のことを忘れることなく語り継ぎ、未来を展望しつつ足元の情勢と投資を語り合う場を提供したい、そんな思いで今年も第8回目となる義援金セミナーを開催することになりました。
今年は技術革命の中での日本に焦点を当て、日本の投資チャンスをマクロ、技術、ミクロなどの多面から解明していきたいと考えています。また、特別対談として藤崎一郎氏をお招きし、高成田享氏と東アジアをめぐる地政学についてお話して頂きます。
昨年のご来場者は約320名、皆様からの義援金と14社の証券会社からの協賛金を合わせて総額3,120,000円を 『テイラー・アンダーソン記念基金』 に寄付することができました。
今年も皆様のご協力を宜しくお願い申し上げます。
※詳細・お申込み方法は、右URLをクリック!> http://c.bme.jp/18/1961/209/211563
プログラム(抜粋)
特 別 対 談 『日米関係と東アジア情勢をどうみるか』
藤崎一郎 テイラー・アンダーソン記念基金共同理事長、元駐米大使
高成田享 テイラー・アンダーソン記念基金専務理事
マクロセッション1『世界経済の新潮流と市場動向』 武者陵司 武者リサーチ 代表
マクロセッション2『新産業革命のグローバル展開と日本の位置』
南川 明IHSグローバル株式会社 日本調査部ディレクター
ミクロセッション 『ミクロ動向と注目されるセクター銘柄』 (パネルディカッション)
日 時 : 2018年5月12日(土)
時 間 : 13:10~16:50 (12:40受付開始)
会 場 : 東京証券会館 8階大ホール
参加費: 受付にて1口3000円を義援金BOXに入れて頂きます。
(1)トランプの氏強硬姿勢が生み出した東アジア情勢の急展開
主導権握るトランプ政権
平昌オリンピック以降、韓国北朝鮮会談、米朝会談予定の発表、金正恩氏の電撃北京訪問と中国北朝鮮会談など、北朝鮮情勢は矢継ぎ早の変転を見せている。他方でトランプ政権による対中貿易制裁を視野に入れた圧力の強化、「米中貿易戦争」が勃発した。これらの情勢変化のすべてはトランプ政権の強硬なイニシャティブによって起こったもの、ということが重要である。北朝鮮と中国のマヌーバーは米国の圧力の高まりに対する対応に過ぎず、情勢展開のカギは米国トランプ政権が握っている。米国を射程に入れた核・弾道ミサイルの完成前に北朝鮮が対話を模索し始めたということは、対北経済制裁と米軍による軍事威圧に、金正恩氏が耐えられなくなった現れである。また後述するように米中疑似貿易戦争において中国は一方的な譲歩をせざるを得ない。今後の展開はトランプ政権が何を目指しどう動くかにかかっていると言ってよい。ではトランプ政権の揺らぐことのない長期目標は何かと問えば、北朝鮮の非核化、中国のフリーライドによる経済台頭の阻止、米国覇権の強化であることは明白だ。中国・北朝鮮は米国が容認できるところまで譲歩し、一時的安定化を図るという方策しかない。トランプ政権側にも妥協が必要である。北の非核化も中国のフリーライド阻止も長期獲得目標であり、そのために目先の経済成長や人々の安全を損なってはならないということである。対北武力行使、対中国貿易戦争といった正面衝突の可能性が当面排除されたと言える。
譲歩必至の北朝鮮・中国
北は非核化の意思を行動によって証明しなければならない。中国は米国が納得するところまで通商交渉を譲歩しなければならない。不安定化していた金融市場は、北朝鮮と中国の譲歩による地政学・通商リスクの軽減を大いに評価する局面へと移行するだろう。
(2) 日本株底打ちから急伸へ
ファンダメンタルズ不在の1Q日本株大暴落、4月以降市場要因が相場押し上げに
2018年第1四半期(1Q)の日本株大暴落は想定外であった。1Q日経平均高値24,124円から底値20,618円まで15%の急落。世界株安に伴うリスクオフセンチメントへの転換により、ドル円レートも110円台から105円割れへと急伸した。2月のVIXショックによる米国発世界株安は、もっぱら市場内部要因(テクニカル、需給要因)によるものであった。それに3月末のトランプ政権による貿易戦争惹起の懸念が加わった。加えて日本では森友問題による決済文書改竄が発覚し、安倍政権支持率が急低下、安倍政権退陣の可能性が浮上し、一段の日本株売り材料とされた。しかし、米中疑似貿易戦争は中国の譲歩で決着することが必至であると考えられること、森友問題では安倍首相や安倍昭恵夫人による公有地売却での便宜供与がなかったことはほぼ明らかなになっており、懸念要素ではなくなるだろう。となると絶好調の世界経済ファンダメンタルズと企業業績に加えて、市場内部要因(需給とテクニカル)が今度は株高の追い風になっていく。過去最高の空売り比率、過去最大級の外国人による日本株売り(現物+先物)などは市場要因が陰の極にあることを示唆している。4月以降日本株式相場は急上昇局面に入っていくのではないか。当然株安と連動していたドル円レートも105円を岩盤としてドル高円安へと大転換していくだろう。
(3) 萎える安倍批判、ほぼ全貌見えた森友問題
安倍政権の無実明確に
財務省決済文書改竄が発覚した。しかし佐川前国税庁長官の国会証言により首相・首相夫人が関与していないことがかえって明確になった。文書改竄疑惑は残るものの、安倍首相の無実がほぼ明らかになったことにより、佐川氏証人喚問を前に盛り上がった安倍批判は萎えていくだろう。政権支持率も大きく回復していくだろう。
安倍首相応援団とは一線を画している毎日新聞山田特別編集委員のコメント(3月26日毎日新聞 風知草)は一読に値する。曰く、共産党が2月1日国会質問ですっぱ抜いた籠池前森友学園理事長の近畿財務局との3時間にわたった交渉の音声データ記録は、籠池夫妻による財務局の糾弾で貫かれていた(ただ国会の質問も報道も、その中にあった1か所、前理事長が首相夫人の激励を匂わせるくだりのみに集中した)。前理事長は業者の記録を読み上げ、ゴミの不法投棄に加担した財務局の民事上、刑事上の責任を厳しく追及した。財務局職員退出後、籠池夫人はこう言っている。「文書(業者の記録)でなかったら(財務)本省も動かれへん、証拠がないから。本省へ行こう、政治家の力なんてアカン。××(財務局職員)に(本省の)担当教えろと言ったら、3人教えてくれた。内線ですぐに(本省国有財産審理)室長が出た。『じゃあ11時に来てください』とおもしろかった。・・・」籠池夫妻はその前日、東京・霞が関の財務省を訪ねていた。同省の落ち度をつく夫妻の追求が奏功、資金不足で難航していた国有地取得が早まった。首相夫人や政治家にも頼ったが、<産廃の上に小学校を建てる非常識>に財務省が加担した記録が一番効いた--。籠池夫妻はそう感じたようだ。
北朝鮮問題、トランプ政権の防衛通商問題での揺さぶりなど、今の国際情勢に対応力ある指導者は安倍首相しか見当たらないのは明白であろう。経済政策でも財政健全化に気を取られている石破、岸田氏などの他の自民党総裁候補では市場の信任は得られない。安倍政権支持率の回復は大きな株価支援要素となる。
(4) 米中疑似貿易戦争の行方、トランプ政権は落としどころを心得ている
落としどころを探る米中
鉄・アルミの関税引き上げ、対中通商要求の提示などトランプ政権が通商政策を大転換させている。報復合戦の応酬から、1930年のスムート・ホーリー法から始まった保護主義政策が世界貿易を収縮させ大恐慌を深刻化させた悪夢を市場は連想し始めている。しかし米中疑似貿易戦争は、一旦中国の譲歩で決着することは必至である、と考えられる。第一にトランプ政権の手口が畏怖・威圧により相手から譲歩を引き出すディール戦略であること。NAFTA交渉でも鉄・アルミ関税問題でも、当初の要求は大きいが、着地点は穏やかなものである。中国に対する1,000億ドルの対米貿易黒字削減要請、600億ドルの対米輸出品目に対する懲罰関税などもその類であろう。中国の不公正貿易慣行を懲罰的関税を脅しに使って是正させようとする戦略である。第二に中国はそれを突っぱねることはできず、貿易戦争に陥らないように着地させざるを得ない。米中貿易において中国は圧倒的に受益者であり、どのような譲歩も全面戦争よりは得である。米国の対中国貿易赤字(財+サービス)は3371億ドル(2017年)、それは中国GDPの3%に相当する。米国は中国の突出したお客なのであり、その要求は受け入れざるを得ない。中国は鉄・アルミ関税に対する報復措置を発表したが、その対象がフルーツ、ナッツ、シームレス鋼管、豚肉など重要性の低い品目にとどめられていることも、中国側の対決回避、妥協姿勢の表れと考えられる。
米国の要求明確に
3月26日付のWSJ紙は米中が交渉に入っていることを報じている。対中要求として、①米国車への輸入関税(25%)の引き下げ、②米国製半導体購入の増額、③米国金融機関の中国へのアクセス拡大、が挙げられている。また合弁企業に対する技術移転の強要をやめさせることも求めている。さらに金融の自由化、企業に対する補助金の削減、ルールの明確化・透明化、対中進出に際しての合弁義務付けの廃止、等も挙げられている。トランプ大統領は飴と鞭を使って交渉すると言っている。トランプ政権は中国側からの譲歩を引きだしたうえで、懲罰関税を軽減するのではないか。その規模は米中双方の経済・貿易に大きな悪影響をもたらすものとはならないだろう。
米国の対中経済封じ込めは始まったばかり
とはいえ、トランプ政権はそれで目的が達成されるとは考えていない。トランプ政権の国家通商政策を担当しているカリフォルニア大学教授ピーター・ナバロ氏は、著書「米中もし戦わば 戦争の地政学」で共産党独裁政権の中国の覇権追及は変わりようがない事、それは必然的に米中衝突を引き起すこと、それを回避するには中国の軍事力増強の基礎である中国経済力を弱め、他方では米国国防力を増強し、未然に中国に米国覇権に挑戦する意欲をそぐことしかない、と主張している。図表1は世界4極の名目GDP推移と予想であるが、中国は2009年に日本を上回り、2016年にはユーロ圏を凌駕し、今の成長トレンドが持続すれば2026年に米中逆転が起きると予測される。米国が中国のフリーライド的側面を容認しつづけ、みすみす経済逆転を甘受するなどということは起きようもない。米国にとっての対中貿易戦争がいかに焦眉の課題かが明らかであろう。
通貨安禁止、ハイテクでの覇権を許さない
ではいかに長期的に中国のフリーライドを抑制し経済台頭を抑えるのか。米国は大いなる成功体験である日米貿易摩擦に学び、①通貨引き下げを禁止し中国の競争力を低下させる、②知的所有権尊重の厳格化、③中国の市場開放、を求め続けるのではないか。中国は「製造2025」プランを策定しハイテク市場、特に最先端の5G通信技術において世界市場での支配権を握ろうとしている。中国が最先端技術で先行し世界市場を押さえ、経済成長を持続させることができれば、先送りされてきた巨額の不良債権をスムーズに処理できる。それができなければいずれ中国はバブルの崩壊、金融危機の深化と外貨危機に陥る。米中覇権争いの焦点がハイテク分野における攻防にあることが明らかである。そこでの米国の攻勢は著しく激しくなると予想される。