2018年01月01日

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ストラテジーブレティン 第192号

満を持して迎える2018年
~明白な事実、平成が土台を作った新たな繁栄の時代が始まった

謹 賀 新 年

 

饒田津に船乗りせむと月待てば 潮もかなひぬ 今は漕ぎ出でな (額田王)

 

2018年はすべての条件が整い、勇気凛凛新たな船出に向かう、という年になるのではないか。ここ数十年これほどの好条件で新年を迎えることは初めてである。平成最後の年は新たな繁栄時代の幕開けの年である、と考える。

 

2018年の最大のリスクは、米国でも中国でも北朝鮮でもなく、アップサイドの過小評価ではないか。世界株高に躓きの要素が見えない。世界同時好況、各国のフレンドリーな経済政策、好企業収益、抑制されたインフレ等々。そのうえ日本では価格競争(number one戦略)から抜け出し、技術品質のみに特化した新たなビジネスモデル(only one戦略)が咲きほころうとしている。ハイテクでもインバウンドでも、求められているものは日本の質であるが、その株価評価は不当なまでに低いままである。

 

人々が悲観論にとらわれる原因は、技術革新とそれがもたらすイノベーションの軽視に尽きる。2年で2.5倍、5年で10倍、10年で100倍の半導体・通信技術の発展は空前の生産性上昇を労働生産性と資本生産性の双方にもたらし、企業はそれにより膨大な富を生み出している。企業は儲かり、使い切れない資本が金利を引き下げる。また供給力の増大が物価を押し下げる。故に余剰資本を有効需要に転換する政策が決定的に重要なのである。今先進国で採用されているリフレ政策は、需給ギャップを解消させ、やがて物価と金利上昇圧力を高める。悲観論は一掃されるのではないかと考える。

 

2018年  元旦   武者リサーチ

 

 

(1)    2018年経済風景点描

 

死角が見えないことが死角?

世界同時好況に弾みがつき、世界経済に陰りが全く見られない。IMFをはじめ各調査機関は軒並み日米欧先進国経済の2017年、2018年見通しを上方修正した。消費に加えて投資の増加趨勢が顕著になっている。それは日本の機械受注、半導体製造装置BBレシオ、米国の耐久財や非国防資本財受注などに顕著に表れている。一様に先進国の失業率は大きく低下し需給ギャップは着実に縮小しており、賃金・物価に上昇圧力が高まるのは必至であろう。金融政策は米欧で超金融緩和の転換が始まりつつあり、日本でも一段の緩和は見合わされている段階である。1980年以降30年以上にわたって続いた長期金利の低下トレンドは2016年に底入れしたが、2018年は緩慢とはいえ、金利上昇傾向がさらに顕著になるだろう。この趨勢をリードする米国では需給ギャップの顕著な縮小と賃金物価圧力の上昇がみられる。レーガン期以来30年ぶりの本格的税制改革がさらに需要を押し上げるので、それは当然ドル高をもたらす。新産業革命の下で超過利潤を謳歌する企業業績は好調であり、債券から株式への投資ウェイトの転換Great Rotationは一段と進むだろう。

 

 

 

 

7のオーメンは杞憂だった

1980年代以降末尾7の年は危機の年というジンクスは見事に外れ、主要国での2017年の経済ファンダメンタルズはうれしい驚きの連続であった。まず最も心配された米国のトランプ政権が経済と市場にとってポジティブな役回りを果たした。トランプ氏の支持率低迷、メディアの批判とは裏腹に、米国株価が就任以降25%上昇したことがその証拠である。ビジネスからのトランプ氏に対する絶大な支持は継続、規制緩和、金融緩和継続に加え年末に大幅税制改革が実現するなど、政権はプロビジネスの期待に応えている。

 

中国経済も党大会以降の失速懸念とは逆に、ハイテク投資は一段と活発化、各国の対中輸出はむしろ加速しており、特に日本からの輸出は突出した伸びとなっている。欧州もポピュリズムによる政治無能化懸念とは裏腹に成長率が高まっている。Brexitの影響が限定的である一方、銀行の信用創造機能の回復が寄与している。日本でも森友加計問題による政権弱体化は杞憂に終わり、むしろ総選挙で安倍政権の信認が高まった。北朝鮮の核ミサイル軍事挑発は、日米関係を緊密にして日本の地政学的立場を強くする、という作用があった。このように2017年の最大の間違いは過剰悲観であったが、2018年も最大のリスクはアップサイドの過小評価になるのではないか。

 

絶好の投資環境、特に日本株

特に日本経済と日本株式には大きな転換点が訪れていると観測される。日本経済は2019年1月で史上最長景気拡大記録となるがその達成の可能性は高い。また株価は2017年9~10月に日経平均16連騰と歴史上観測されたことのないギネスブック級の連騰を記録、さらに日経平均が高値からの半値戻しを達成した。「半値戻しは全値戻し」との格言に従えば、バブル期の1989年に付けた日経平均の史上最高値38915円が、視野に入ってきたと言える。デフレマインドが和らぎ、人々が極端なリスク回避・安全志向を改め、積極的なリスクテイクで高いリターンを求めるようになってきた。日本の投資の中心は、圧倒的に現預金、いわゆる安全資産で国民金融資産の7割を占める。これに対して、米国の金融資産内訳は、安全資産2割、リスク資産7割強と真逆である。米国の方向へ少し向かうだけで、強烈な需給改善と大幅な株高が期待できよう。

 

 

世界的ハイテクブームの受益者日本

セクター別では、数十年ぶりに、日本のハイテクセクターが経済成長と投資対象の首位に座る年となるだろう。世界的なIoT(モノのインターネット)関連投資、つまりあらゆるものがつながる時代に向けたインフラストラクチャー構築がいよいよ本格化している。加えて中国がハイテク爆投資に邁進している。中国は投資によって経済成長が維持されている国だが、換言すれば、投資を止めれば経済成長も止まり、ただちに経済危機に陥る心配がある。その国がハイテクに照準を絞って、巨額な投資を始めている。

 

ハイテクブームにおいて日本は極めて有利なポジションに立っている。新たなイノベーションに必要な周辺技術、基盤技術のほぼ全てを兼ね備えている産業構造を持つ国は日本だけである。中国、韓国、台湾、ドイツはハイテクそのものには投資していても、その周辺や基盤の多くを日本に依存している。言い換えれば、日本のエレクトロニクス企業群は、このイノベーションブームの到来に際して、最も適切なソリューションを世界の顧客に提案・提供できるという唯一無二の強みを持っている。2018年以降は、その強みが花開くのではないだろうか。

 

日本の観光人気高まる

またインバウンドのさらなる増加が日本の内需型産業を底上げしていこう。株価上昇により企業、家計、金融機関のバランスシートが改善しリスクテイク熱が高まれば、ゼロコストの預金を持つ金融機関の収益機会が拡大するので、金融株が期待できる。

 

(2)    悲観論者の消滅は時間の問題

 

ミステリーでも謎でも、何でもない

人々が悲観論にとらわれる原因は、技術革新とそれがもたらすイノベーションの軽視に尽きる。5年で10倍、10年で100倍の半導体・通信技術の発展は空前の生産性上昇をもたらし膨大な富を生み出している。だから企業は儲かり、使い切れない資本が金利を引き下げる。また供給力の増大が物価を押し下げる。故に余剰資本を有効需要に転換する策が決定的に重要なのである。有効需要が追加され需給ギャップが縮小すればインフレは高まり、実物・金融両面で投資需要が増加し金利を押し上げる。好況・好業績と物価・金利の低迷の併存は教科書には書いてないが、今やミステリーでも謎でもない。現在の常態が、【産業革命➡生産性上昇・企業利益増加➡供給力増加・資本と労働余剰増大➡有効需要創造政策(リフレ策)が緊要】なのである。

 

このクリアカットの事実を見過ごし、低インフレや低金利を悲観論、反リフレ政策論の根拠とするのは、誤りである。

  

 

 

資本余剰・供給力過剰状態の放置は危険➡リフレ政策が決定的に重要

この資本余剰、供給力過剰を放置することは危険である。資本が滞留し利子率が下がっているということは、企業が稼いだお金が遊んでいるということである。お金が遊んでいることは資本主義の自己否定である。この状態を変える唯一の方策は政府のイニャティブである。政府が財政、金融、あるいは所得政策によって余剰資本が実態経済に還流する筋道をつけないと、経済は直ちに停滞する。これが機能していない時には、企業がいくら儲かっていても株価が下落しやがては経済危機に至る。正しく安倍政権は余剰資本を需要に転換するリフレ政策を推し進めたのであり、対照的に反リフレ政策をとった民主党政権下(2009年9月から2012年12月まで)では、世界経済環境はリーマンショックからの鋭角回復過程にあったにも関わらず、円の独歩高と景気の悪化を招き日本株は一人負けを喫したのである。トランプ政権も同じく、財政・金融政策を用いて余剰貯蓄を需要創造に繋げるという明確な政策のチャネルを持っている。トランプ大統領誕生とともに株価が25%も上昇したという現象は十分に根拠のあることである。

 

(3)    日本企業の新たな価値創造モデル “Japan as only one”

 

Number one からOnly oneへ

日本企業の収益力は、世界新環境(地政学、新技術と産業革命、グローバリゼーション)に完全に適合するビジネスモデルの完成により、飛躍的に高まっている。新ビジネスモデルは国際分業上での日本の立場を大きく有利にし、利益率の向上をもたらしている。

 

日本の企業収益が劇的な上昇を続けている。直近の企業収益は、営業利益対GDP比11.9%で過去最高となっている。また日銀短観による製造業大企業の経常利益率は、2017年度は8.11%と予想され、それはバブル景気のピーク1989年度(5.75%)、リーマンショック直前のピーク2006年度(6.76%)を大きく上回るものである。名目GDPはここ20数年ほぼ500兆円で横ばいであったにも関わらず、企業収益が顕著な増加を見せているのはなぜか。

  

  

“Japan as only one”       

それは日本企業のビジネスモデルの大転換によって支えられている。かつての日本企業のビジネスモデルは、ナンバーワン志向であった。1980年代までの日本は導入技術と価格競争力により、世界の製造業主要分野においてナンバーワンの地位を獲得した。 “Japan as number one”の時代である。しかしこのモデルは米国による日本叩き、超円高、韓国などアジア諸国企業の模倣と追撃により、完全に敗れた。かつて日本が支配した液晶、パソコン、スマホ、半導体、テレビというデジタルの中枢分野では、日本企業のプレゼンスは、今は皆無である。では日本の企業は一体どこで生き延び収益を上げているのかといえば、それは周辺と基盤の分野である。デジタルが機能するには半導体など中枢分野だけでなく、半導体が処理する情報の入力部分のセンサー、そこで下された結論をアクションに繋げる部分のアクチュエーター(モーター)などのインターフェースが必要になる。また中枢分野の製造工程を支える素材、部品、装置などの基盤が必要である。日本は一番市場が大きいエレクトロニクス本体、中枢では負けたものの、周辺と基盤で見事に生きのびているのである。

 

 

価格競争脱却、技術品質優位に特化

大量に資金が投入される中枢の分野は競争が極めて激しい。中国はこの分野の支配権を得るために膨大な投資をしているが、それはいずれ大変な価格競争を引き起こすだろう。しかしこの中枢分野は日本は既に敗退した分野であるため影響は小さい。他方日本の担う分野は希少性が高く、価格支配力が維持できる、いわばonly oneの分野である。いうまでもなく日本には、国内市場向けに半導体、液晶、テレビ、パソコン、スマホなど中枢の技術も残っている。この中枢および、周辺と基盤という3つの技術分野を揃えているのは日本だけである。

 

IoT時代に日本の技術総合力、only one戦略の強みがものをいう

これからIoTの時代になると、これら3要素が揃わないとモノが作れなくなる。IoTの時代の機器は単純にモジュールを組み合わせればできるというものではなく、すり合わせによる工夫が必要な分野、また大量生産ではなく多品種小ロット生産、技術がブラックボックスで簡単には模倣できないなどの特性がある。研究室で人々が一生懸命チームを作って研究をしていくという地道な努力が必要、また多様なユーザーの現場ニーズからのフィードバックが必要である。これらによりonly oneの分野では容易にキャッチアップされることはない。

 

世界的ハイテクブームの中心にある中国は『中国製造2025』プランで大投資をしている。この恩恵を日本のエレクトロニクスメーカー、機械メーカー、化学メーカーが受けている。短期的には極めて大きな追い風である。そして長期的には日本企業は中国の爆投資の弊害を受けにくいポジションに立っている。ポイントはナンバーワンを目指す価格競争から完全に外れ、技術品質に特化、オンリーワンであるがゆえに価格支配力がある、円高でも抵抗力がある、これがこの間の日本の企業収益を支えていると考えられる。

 

日本企業の技術品質で優位性持つオンリーワン分野への特化という特徴は、観光などサービス業など内需産業においても当てはまることである。豊かになったアジア中産階級が高品質日本に向かって群れを成して訪れている。中国人の旅行先人気で日本がトップになったとの報道があった。また韓国の2017年対日渡航者数は約700万人対人口比15%、台湾は同約450万人対人口比20%と日本人気は著しく高くかつうなぎのぼりである。日本のオンリーワンのソフトパワーがものを言っていると考えられる。

 (4)    日本の政治的リーダーシップ強まる

 

自由主義圏随一の安定政権

日本の地政学的立場が強まっている。自由主義諸国で最も安定し、ドイツメルケル首相に次ぐ長期政権となった安倍政権の下で、日英準同盟国化が進行し、河野外相は国連安保理議長としてのリーダーシップを発揮している。またトランプ政権が離脱を決めたTPPのまとめ役としてふるまっている。河野外相はトランプ氏のエルサレムへの米国大使館移設表明後、主要国外相としては初の中東訪問を行い、プレゼンスを発揮した。

 

日米で共有される対中警戒戦略

トランプ氏は懸念されてきた孤立主義的傾向を払しょくしAPECにおいて、「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンを打ち出したが、これは安倍政権のドクトリン『自由と繁栄の弧』に米国が同調したものであった。そして米国は昨年末(12月18日)『国家安全保障戦略』を発表し、「中国は米国が主導する国際秩序への最大の挑戦者である」と位置づけ、対中対決姿勢をあからさまにした。すでに進行中の米中貿易交渉においてロバート・ライトハイザーUSTR代表は通商法301条の適用をちらつかせつつ、不公正貿易慣行の是正を求めている。そもそも中国の著しく高い経済成長は米国の巨額の輸入によって可能になった。米国貿易赤字の半分が中国でありそれは3470億ドルに上る。そして米国の対中経常赤字は過去10年間ほぼ米国GDPの2%と巨額である。換言すれば米国の親切な通商が中国経済を強大にし、つけあがらせたといえる。前述の『国家安全保障戦略』には「中国の軍事力の近代化と経済拡張は、大きな部分が米国の軍事や経済からの収奪の結果である」と明記されている。今後米国の対中政策が大転換されることは必至である。

 

他方で、日米に大きな経済的対立点はない。確かに日本の対米貿易黒字は689億ドルと大きいが対中国赤字の5分の1に過ぎない。加えて今では日本は経済の基幹部分を大きく米国に開放、依存している、インターネット、スマホ、航空機、先端軍事品、MPUなど半導体、金融などは日本市場において米国企業が圧倒的プレゼンスを持っている。また米国国債を1兆ドル以上購入し、米国への資本供給に協力している。1990当時の日米摩擦勃発時とは全く異なる風景である。日米は米国にとっても理想的相互補完分業関係にあるといえる。にもかかわらず日本の対米貿易黒字を時として取り上げるのは対中で厳しい態度を貫こうとしている米国の公平性を装ういわばアリバイ作りという面がある。

 

中韓冷却と日中関係急改善、背景に経済要因が

こうした中で昨秋の党大会以降、中国の対日姿勢改善が顕著になっている。権力基盤を強めた習近平主席が、対日弱腰批判を恐れる必要がなくなったからではあるが、それにしてもなぜ中国は中国の覇権主義に対する批判をやめない日本にすり寄るのだろうか。それは日本の技術が必須だから、つまり前述の中国の産業構造高度化プラン、製造強国建設計画において日本の周辺基盤技術が必須だからに他ならない。『中国製造2025』プランが策定された2016年以降、中国の相手国別にみた輸入額は対日が、対韓国、対台湾、対ドイツなどを抑えて、主要国中最も高い伸びを見せていることが、その証左である。

 

他方でTHAADミサイル配備以降中国の対韓国姿勢が著しく厳しくなっている。文大統領は12月の中国訪問で甚だしい冷遇を受けたと韓国メディアは報道している。また中国の韓国旅行規制により韓国の観光産業は大打撃を受けている。今や韓国は中国にとってナンバーワン競争を仕掛ける相手であるが、他方韓国経済は大きく中国に依存しているという非対称性が背景にある。韓国の輸出相手国比率において対中国は25%と突出して高い。一方中国にとって最大の輸入国は韓国であり、かつ貿易収支は赤字であるから、中国の強圧的対韓対応は根拠があることではある。

 

このようにOnly one 戦略で成し遂げられ日本の企業競争力復活は、日本の地政学的立場を大きく強化しているといえる。

 

(5)    リスクは限定的

 

2018年に経済後退や株価上昇トレンドの転換をもたらすようなリスクは考えにくい。あえて挙げれば、米国金融引き締めのリスク、中国経済失速のリスク、対北朝鮮軍事衝突、日本の財政破綻などが指摘されるが、後述するように2018年に限って言えば心配は無用であろう。

 

① 米国金融引き締めのリスク

唯一の懸念はFRBがビハインド・ザ・カーブに陥り、その反動からオーバーキル(過剰引締め)になることであるが、すでに5回の予防的利上げと資産圧縮を始めており、その可能性は小さい。アメリカが戦後リセッションに陥ったのは、長短期金利が逆転したときのみ、しかし長短金利が逆転する条件はほとんど地平上に現れていない。長短金利が逆転する最大の要因はインフレの加速だが、その可能性はほとんどない。政策の間違いさえ無ければアメリカの景気拡大は、2年はいうまでもなく、あと5年程度続く可能性もある。

 

ただ税制改革・減税に加えて2018年はインフラ投資も具体化しそうであり、公的需要拡大により、秩序だった需給タイト化、インフレの高まりは起こり得る。

 

 

② 中国の金融危機深化は封印可能

ハイテク投資、新経済特区雄安の建設など公的部門のけん引により6%台の成長が続いている。世界第二位の経済規模かつ中進国になった今、6%成長持続には無理がある。しかし2018年も、経済失速が危機を引き起こした2015年の苦い経験を回避するため、公的投資偏重のパターンを続けざるを得ない。投資偏重の経済成長は過剰設備、不採算社会資本、潜在的不良債権を積み上げるリスクがあるが、企業や地方政府の破綻は国家の介入によって回避できる。中央集権的な政府が際限なく通貨を発行しゾンビを救済し続け、場合によっては統計や財務データを隠蔽、改ざんすることも手段としてはあり得るとすれば、危機は永遠に封印できるのか(?) という問いがある。

 

急減する貿易黒字、強化される資本規制

ならば中国の危機はどこからほころぶのか、何をウォッチしていくべきなのかだが、それはクロスボーダーの資金収支であり、それは四半期ごとに発表される国際収支統計と対外資産負債残高に現れている。

 

外貨準備高の増減はその収支尻として重要である。2014年までの中国の成長エンジンは貿易(経常)黒字と巨額資本流入による潤沢な海外マネーであったが、今貿易黒字が年率20%ペースで急減し、資本流入も止まり、外貨事情は激変している。2017年は資本取引規制や海外投資抑制、外貨持ち出し規制によりかろうじて資本収支の悪化を回避し外貨準備高は3兆ドル強とほぼ横這いで推移した。2018年は貿易黒字のさらなる減少から、一段の資本規制が必要になるだろう。中国の湾岸部の人件費がアセアン諸国のどこよりも高くなり輸出競争力が低下していること、ハイテク投資は輸入を大幅に増加せざるを得ないことが貿易黒字急減の背景にあり、これは構造的な問題である。

 

人民元安は選択肢になり得ない

高人件費を人民元安で是正したいところであるが、それは対中資本流入を更に抑制するというジレンマをもたらす。それ以上に通貨危機の悪夢を呼び起こす。また対中貿易摩擦を強める米国は中国の通貨切り下げを監視している。トランプ大統領が選挙公約で述べた「中国をいの一番に為替操作国に認定する」が実施されれば、米国からの報復の連鎖は計り知れない。このように考えれば割高な人民元を維持し続けることが唯一の選択肢といえるが、それは資本規制の強化と資本流入のさらなる減少を不可避にし、中国の国際金融力を急速に衰えさせていくであろう。とはいえそれは急性の危機には結びつかない。2018年に予想される米国利上げは中国からの資本流出圧力を強めるという問題はあるが、対処可能であろう。

 

外貨市場が中国のアキレス腱

対外資産負債残高こそがその国の本来の金融力の強さを示していると考えられるが、そこに中国経済のアキレス腱がある。中国は世界最大で日本の3倍近い外貨準備を保有している国であり、それをもって世界最強の国際金融能力保有国と解釈されているが、実はその外貨準備の半分は借金であることが、この表からわかる。中国は極めて大量の海外資金(海外からの投資、融資)に依存して国内の投資をしてきたが、これが同じ黒字国でも日本との大きな違いである。日本の成長は全て国内のお金(貯蓄)、中国は対外債務を積み上げで成長してきた。この借金で成長してきた中国が海外から投融資の返済を求められたり、資金が海外に逃げ出したら、直ちに深刻な通貨危機に陥る脆弱性を持っている。

  

 

③ 北朝鮮問題は世界リセッションを引き起こさない

軍事衝突は合理的に考えれば起きえない。北が滅亡に結びつく先制攻撃を仕掛けるとは考えられない。民主主義国米国も北の反撃で大量の人的被害が想定される以上先制できない。ではミステイクによって戦争が起きるかだが、それは起きない。米国も北朝鮮も全面衝突を回避したいと考えているなら、どこかの段階でチェックが入ることは確実であろう。

 

唯一可能性があるとすれば、米国が北の反撃能力を瞬間攻撃で無効化できると確信することだが、その場合世界経済への深刻な悪影響は回避できよう。また米国が先制攻撃を仕掛ける場合は中国が北を経済的に締め上げ、新レジームづくりを主導することが不可避である。北の滅亡、流動化を絶対に回避したいのは米中韓の共通利害である。

 

④ 日本固有問題、政府債務、日銀の財政ファイナンス批判は全く心配ない

 

BSの片側だけで財務健全性を議論する愚かさ

合言葉のように語られる日本政府債務問題、これは当面も中長期的にも全く心配ないといえる。政府は債務超過でも、家計、企業に大きな貯蓄余剰があり、日本全体では巨額の資産超過、ということが最も重要な真実である。日本の対外バランスシート(対外資産負債残高表)は世界で一番優良、3.2兆ドルの対外純資産は中国の2倍近くにのぼる。また日本の政府部門の健全性をバランスシートの片側、債務だけで問題にするのは矮小化した議論である。日本政府は高速道路などの実物資産、投資資産や、1兆ドルを超える外貨準備の裏付けとしての外貨建債券など巨額の資産を保有しており(財務省統計ではそれらの資産合計は670兆円に上る)、政府の総債務1200兆円から以上の資産残高を差し引いた純債務は520兆円となり、それは公表されている政府総債務の半分以下なのである。対GDP比では総債務は2.23倍だが、純債務は0.97倍まで低下する。政府の純債務を各国と比較すると、欧米各国がほぼ0.8~0.9の範囲内なので、極端に悪い数字ではない。日本はスイスとともに世界で一番金利(国債利回り)が低いということはマーケットが日本政府を投資対象として安全と評価している表れと考えられる。ギリシャは一番の借金国なので金利は一番高い。日本の政府が低金利でお金を借りられるということは、政府は借金があるが民間は大幅な貯蓄余剰で、両方を足したら日本は十分に健全だということなのである。

 

日銀による財政ファイナンス、評価は民間価値創造を抑えるか促進するかで下すべき

日本銀行が巨額の資産膨張(=通貨を発行)し、その資金で400兆円に上る国債を買っており、財政ファイナンスをしているという批判がある。他方では日銀は政府部門の一つなので、日銀による国債保有額は、政府の債務とは言えないという議論もある。そう考えれば、<政府純債務520兆円―日銀保有国債400兆円=真の政府債務120兆円>と計算でき、政府の債務問題は全く心配ないという議論も成り立つのである。日銀の資産と政府の債務を足し合わされると相殺される。それは日銀という主体はただで資金を調達できる通貨発行特権があり、政府債務を返済義務のない通貨発行で賄うという論理である。原理的にはそれに問題はない。問題は日銀がお札をどんどん刷った結果ハイパーインフレになって国の生産性が落ち、民間の所得を生み出す力が弱くなり、国として滅びる可能性があるかである。それを判断する基準は民間が価値を作る力があるかどうか、という民間の問題となるが、日本の民間は価値を十分作りだし、強くなっているので価値を作り出せる日本の通貨の価値がなくなることはないと言える。百歩譲ってハイパーインフレになり通貨が暴落すれば、ただでさえ強力な日本の産業競争力がさらに強まり、日本の価値を作り出す力は一段と強化される。世界で一番古く不換紙幣を発行したのはモンゴルだが、その通貨が通用しなくなったのはモンゴルが滅びる直前、通貨の価値がなくなるのはその国が価値を作りだす力がなくなり、滅びる時といえる。日本は全くその段階には至っていないのは明白である。

 

ハイパーインフレは直ちに債務をキャンセルさせる

なお政府債務をファイナンスするために通貨発行を増加させればハイパーインフレになるという批判がある。確かに通貨価値は下落するが、それは直ちに政府債務が劇的に軽減されることを意味する。以上をまとめると政府債務と日銀の資産膨張を懸念する見方はいずれも、根拠薄弱、謬論といえる。

 

 

(6)    天皇譲位が切り開く新時代

 

新時代の帰趨は平成時代によって既に定められている

2019年4月30日に天皇陛下が譲位し、新しい元号となる。よって、2018年は、平成のまとめの年になる。平成の30年間とはいったいどのような時代だったのか、みなが改めて考える年になる。

 

近代日本を振り返ると図表14のように、天皇在位と元号は時代区分と密接に関連してきた。平成が次の御代に代わることは、明白に新時代が始まることを意味する。その新しい御代とはどんな時代なのかを決めるのは、平成時代である。平成の30年間がどのような時代だったのか、将来に向けて債務を積み上げた時代だったのか、将来に向けて財産を積み上げた時代だったのかの、評価にかかってくる。

 

当社は、平成とは、日本が戦後の高度成長に伴うごった返しのドサクサをきれいに整理して、謙虚になり、グローバルシティズン(世界の市民)として世界から尊敬され、国民も企業も持続的な成長にふさわしい心構えを学んだ時代であったと考える。それは平成天皇のお人柄そのものでもある。特に平成の後半はこれからの成長の土台を見事に作った期間だったと思われる。前述のGlobal only one戦略が定着し日本企業の価値を作り出す能力は、平成の時代に飛躍的に高まった。

 

大逆転必至の平成時代の評価

2018年は、平成の次に来る新しい繁栄の時代の予兆がかなりはっきりと見える年になるだろう。現時点でのコンセンサスは「平成30年間は財政赤字が増加し、人口減少が進み、将来につけをのこした時代」との評価が圧倒的であろう。しかしそれは明白に間違いである。その間違いに気づくのが2018年、平成最後の年なのではないか。

 

生前譲位なので喪に服す必要がなく、祝賀ムードが高まりプラスの経済効果が大きく出やすい。国民の悲観―ムードを一掃する、解放感に満ちた第二次世界大戦直後の「青い山脈」に似の雰囲気が再現される可能性を考えるべきではないか。

 

以下に近代日本の時代区分を付記しておく

 

  1. 明治、大正 ➡近代日本の黎明期、日英同盟が国際基軸
  2. 昭和前期(~20年) ➡近代日本の挫折、世界のスーパーパワーと敵対
  3. 昭和後期(20年~) ➡戦後復興と空前の経済繁栄、Japan as No 1、冷戦下の日米同盟
  4. 平成(表面的には) ➡失われた20年大調整、成長を止めた20年、名目GDP500兆円で横這いと日本独り負け、日米同盟下だが実態は「安保瓶のふた」論、日米貿易戦争と超円高・日本バッシング
  5. 平成(真実は) ➡洗練化の時代(謙虚、慎ましさ、世界市民化、文化進化、国民性の紳士化)、新たなビジネスモデル確立(脱競争、Only one提供の国へ)、将来の飛躍の条件を整えた時代、株価は大暴落から鋭角回復の緒に。
  6. 新御代 ➡世界市民、新たな経済繁栄へ。米中対決下の日米基軸。世界最強の米国の最重要の同盟国に。覇権を求めないが突出した影響力を持つ経済大国に。

 

 

更に夢を膨らますと

デフレ脱却後の日本株のフェアバリューは差し当たって「配当利回り=10年国債利回り」となる水準だと考えられるが、その相関からはじき出すと、およそ日経平均30000円から40000円と試算される。前述のような好材料を考えれば、2018年にまず下限の30000円をうかがい、さらに2020年の東京オリンピック前後には40000円をトライするというような歴史的大相場が始まっている可能性が濃厚ではないか。しかしその先新天皇の御代での10~10数年の間に、日経平均株価は10万円到達もあり得るのではないか。2020年35000円または40000円年とし2030年10万円とすると、年平均上昇率は前者で11%、後者で9.5%、30年間全く値上がりがなかったことを考えれば、あり得ない数字ではあるまい(ちなみに過去30年間の米国ダウ工業株指数は13倍、年率9.0%であった)。

 

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