2017年10月03日
ストラテジーブレティン 第187号
世界同時経済ブーム、安倍大勝の公算、壮大な株高に
(1) 北朝鮮、危機深化は11月のトランプ訪亜以降
北朝鮮問題、日本の総選挙、トランプ減税、FRBの利上げと資産圧縮、とテーマが山積しているがこのほぼすべては株高要因ではないか。唯一の読めない不安要因は北朝鮮との軍事衝突であるが、北が自滅行為である先制攻撃を仕掛ける可能性は小さく、唯一あり得る米国の先制アクションは、準備が整う11月のトランプ大統領のアジア訪問の後であろう。安倍首相の突如の9月28日の解散総選挙も、北朝鮮問題が発火する前の国論統一という狙いがあるとみられている。とすればここ1か月間は、しばし安泰の期間といえるかもしれない。
(2) 世界同時景気拡大佳境に
北朝鮮問題を除けば情勢は大幅な株高をサポートする方向に動いている。10月2日発表の日本の日銀短観、米国の製造業ISM指数は、いずれも空前の活況、世界経済は同時経済ブームの只中にあることが、鮮明になりつつある。
日本、バブル期以降最高の業況に、利益空前
短観において製造業大企業の業況判断はリーマンショック以降最高水準まで高まったが、特に化学、電気機械、生産用機械、業務用機械といったグローバル設備投資関連の好調ぶりが顕著である。業況以上に顕著なのは利益と雇用の好調ぶりである。大企業製造業の経常利益は2016年下期の前年同期比33.1%に続き2017年度上期に前年同期比23.1%の連続大幅増益(13.8%の上方修正)となり空前の高収益となった。下期は1ドル109.12円という為替を前提に8.9%減益と慎重な見通しだが大幅な上方修正は必至であろう。経常利益率は2017年度(計画)7.47%とリーマンショック直前(2006年度)の6.76%、バブル景気ピーク(1889年)の5.75%を大幅に上回る見通し、日本企業が顕著に高付加価値化、好採算化にシフトしている様子がうかがわれる。アジア勢に価格競争で敗退した日本企業は、技術品質がものをいう非価格競争力分野で圧倒的プレゼンスを確保していることをうかがわせる。ちなみに中国の対日輸入は2016年1.6%増(対韓国8.9%%減、対台湾2.8%減)、2017年1~8月14.3%増(対韓国9.5%増、対台湾10.2%増)と、他のアジア諸国を上回っている。中間財供給において日本の優位性が強まっている表れと考えられる。
好景況、好利益の下で、人手不足がさらに深刻化している。大企業、以上に中堅中小企業でのタイト化が著しい。また設備過剰感が一掃され、不足感が台頭している。これは当然設備投資意欲を大幅に引き上げる。2017年度の設備投資計画額(土地を除きソフト・開発研究を含む)は大企業で7.5%増(前年度+0.7%)、中堅企業で14.0%増(+8.8%)、中小企業4.7%増(-7.4%)と顕著に増加している。
生産増・雇用増・利益増からいよいよ投資増へと、日本の景気拡大に弾みがつきつつあるのである。景気のブーム化は、米国ではより顕著である。製造業ISM指数は9月60.8ポイントと急伸した。特に新規受注は64.6ポイントとリーマンショック以降最高となった。耐久財・資本財受注の伸長など経済拡大の牽引車が人手不足による設備投資増加に移りつつある姿が、米日ともに顕著、世界経済はいよいよフルスロットルの拡大場面に入りつつあるといえる。とすればインフレ圧力は水面下で着実に高まりつつあることは疑いあるまい。米国ではここ一年間歴史的低水準にあった労働分配率が、上昇し始めていることはそれを如実に示唆している。FRBの利上げトレンドは(次期議長がだれであれ)継続されるとみるべきであろう。ただ資産圧縮により長期金利はより上昇トレンドを強めるだろう。
(3) トランプ政権の減税政策決まる
市場をさらに明るくしているのはいったん諦めかけられていた減税・税制改革の進展である。大幅な企業減税(連邦法人税35%→20%)が実現すれば米国企業のEPSは少なくとも10%程度は上昇し、PERは現行の18倍から16倍へと低下する。またレパトリ減税がうたわれており実現すれば巨額の海外留保利益の国内還流が実現し、それは膨大な自社株買いの原資になるだろう。また所得減税と基礎控除上限の大幅引き上げ(12700ドルから24000ドルへ)は消費に寄与するだろう。財源手当てがなされておらず単なるスペンディングポリシーであるという批判、富裕者負担減になる所得減税は民主党の同意を得られるか、などの疑問はある。またFTは「Trickle-down myths Trump tax cut will help investors not workers」 (10.2)と批判している。確かにこの税制改革案は企業と投資家に直接の恩恵をもたらす。しかしそれが雇用や消費者に波及するのかしないのか(筆者はすると考える)は問題に違いないが、ともかくも当面の株式市場とドル相場を大きく押し上げる要素であることは言を俟たない。
財政拡大と金融引き締めのトランプノミクス期待で昨年末大幅に上昇したドル相場は、トランプ政策の失望により今年に入り急失墜した。しかしトランプ政権の政策に対する期待が戻り財政拡大と金融引き締めのポリシーミツクスが打ち出されたことで、再度ドル高がスタートするのではないか。
(4) 総選挙、自民圧勝、政権求心力高まろう
日本株式に対する最も大きなポジティブサプライズは10月22日実施の衆院総選挙における与党大勝と安倍政権の求心力の高まりであろう。森友学園、加計学園問題による安倍首相の支持率の急低下、の下での突如の解散総選挙は、大義なき解散と批判された。また解散表明直後に小池都知事は野党結集のかなめとしての「希望の党」を創設し、政権奪取の意欲をあらわにした。さらには「希望の党」発足直後に民進党の前原党首は事実上の民進党解消(民進党議員の「希望の党」公認シフト)を打ち出した。それは、民進党議員総会で承認され民進党は機能停止に陥った。小池「希望の党」代表は民進党議員の希望の党公認候補者受け入れの条件として、安保法制賛成、憲法改正賛成を求め、それに適合しない議員の受け入れ排除を表明した。排除されたリベラル系の民進党議員は、枝野民進党代表代行が設立を表明した「立憲民主党」に結集することになりそうである。こうした想像を絶する事態の展開の先をどう読むか。
結論は自民党安倍政権勝利、政権の求心力強まる、ということになりそうである。
- 野党共闘不可能に➡連合し統一候補を立てない限り、政権交代は不可能であるが、一連の動きにより野党共闘は不可能になった。保守系野党の「希望の党」、維新の会と左系野党(枝野氏の「立憲民主党」、社民党、共産党)の連携は不可能である。
- 「希望の党」、小池氏早くも馬脚を現す➡一大ブームを巻き起こす可能性が指摘されていた小池氏と「希望の党」の人気が急落しそうである。週末のメディアは小池氏と「希望の党」設立以降の経緯を批判的に報道した。例えば政権交代勢力にエールを送り続けてきた朝日新聞ですら、3日連載で「小池百合子分析」なる記事を掲載し、「流転の遍歴小池流、時の権力者に人脈、憶測呼ぶ」「多様性(ダイバーシティ)主張と政策に溝」「合意より自らの判断重視、過程語らず」と、小池氏の実績と政治手法の特異性、問題性を指摘した。小泉進次郎自民党筆頭副幹事長のコメント「小池氏は都知事を放り出しても、都知事を続けることで「希望の党」党首・反安倍の首相候補の任を回避することになったとしても、どちらも無責任だ」は、小池氏が直面している深刻なジレンマを言い当てている。「希望の党」ブームは萎え獲得議席数は期待を下回る可能性が高いと思われるが、その場合、かつての維新の会と同様「希望の党」は自民党の補完勢力となり、政権の安定度を増す要素となるだろう。
- リベラルの退潮覆い難し➡民進党が事実上の解党を余儀なくされつつあるのは、民主党、民進党まで連綿として続いてきた戦後リベラルの政策破綻が否定できなくなったからである。旧共産圏・東側を平和愛好勢力と言ったり、企業性悪説や弱者救済の名の福祉バラマキ政策は、有権者からも見放され、一部メディアとアカデミズムに生息しているに過ぎない。また民主党政権が主導した金融引き締めや円高を招くデフレ政策が、歴史の検証に耐えられないことも明白である。「希望の党」から排除されたリベラル系が意味のある議席水準を確保することは考えられない。
以上より、年末にかけての日本株式は壮大な上昇となりそうである。