2015年08月06日

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ストラテジーブレティン 第144号

リスクハングリーの世界金融市場、浮上する日本株式

(1)  潜在的リスク - ギリシャ、中国、米国利上げ、資源価格下落、は織り込まれた

ギリシャ要因:さしあたっての7月ギリシャ危機はしのいだものの、引き続き債務返済期限が相次いで訪れるので、いずれデフォルトする可能性があるとの警戒感は消えていない。しかし、当面ギリシャの破たんはあり得ないだろう。経済困難の中、引き続き金融支援と債務のリストラは不可避だが、ここまで来たらドイツにギリシャを突き放す選択肢はないのではないか。ドイツの強硬姿勢に対してはフランス、イタリアなどの南欧諸国だけではなく米国やIMFが批判的になっている。そもそも過去二回の世界大戦の戦後処理に当たってはドイツこそ債務リストラの恩恵を最も強く受けた国、との批判が噴出している。またドイツは競争力には不釣り合いなユーロという安価な通貨を保有しており、ユーロ設立の最大の受益国であるので、ギリシャ支援とユーロ維持は国益である。ドイツの金融市場もそれを支持(つまりドイツ株式はそれを歓迎)している。

 

中国要因:株価暴落、経済失速は小康状態に入っていくだろう。普段温和な李克強首相が机をたたき株価対策を指示した(ウオールストリート・ジャーナル紙)。中国は今究極のContingency  Policy を発動中である。株価の暴落は止まった。金融緩和、財政出動の余地は十分にある。公共投資、不動産投資は政策発動により上向き始めている。生産や輸出入、不動産投資に持ち直しの兆しが現われている。中国金融危機リスク、経済失速リスクは当面棚上げされるだろう。

 

米国最初の利上げ要因:9月に実施される公算が強まってきた。しかし、それは過剰懸念のガス抜きとなるのではないか。これほどまでのFRBの対話を持って尚、利上げが米国経済と金融市場の心理(アニマルスピリット)にネガティブと考える人は余程の皮肉屋であろう。市場参加者がいまだに米利上げをマイナス材料ととらえているとしたら、この先のポジティブサプライズは大きい。歴史的にも最初の利上げは景気と株価にマイナスに作用したことはなかった。

 

原油価格下落要因:単純に購買力の産油国から需要国への移転に過ぎない。但し、タイムラグが起きる。原油安は直ちに産油国(石油企業)の収入減と需要減を引き起し、同時に需要国(需要企業)の所得増をもたらす。しかし需要国の所得増が需要増加に結び付くには時間がかかる。今はタイムラグの局面と言える。例えば米国のエネルギー企業の収益は急減しているが、それが直ちに消費関連企業の需要増・収益増加には結びついていない。しかし需要サイドの需要増加は時間の問題。米日欧先進国には空前の「石油減税」の効果が蓄積されているはずである。原油価格下落のマイナスはすでに顕在化しているが、プラスはようやくこれから表面化すると見込まれる。それは今後の世界株高要因となる。

 

ストラテジーブレティン141号「ギリシャ国民投票で緊縮策にノー、債権者側とドイツは譲歩を迫られるだろう」(2015年7月5日)、142号「中国、繰り出される究極の弥縫策、Contingency plan発動か ~ 高まる存在感とは裏腹に ~」(2015年7月30日)を参照ください。

 

(2) 景気循環的観点から心配するべき主要国はない

米国と日本においては2015年前半、幾つかの一過性要因により経済成長が落ち込んだが、年後半は成長を取り戻す局面に入っていく公算が大きい。ユーロ圏はギリシャ危機の封じ込めで循環回復圧力が顕在化、中国は株価暴落と景気失速懸念顕在化に対し、何でもありの景気対策発動により緩慢なる成長回復へ、年末にかけ世界景気は加速する公算が大きい。

 

ストラテジーブレティン140号「見えてきた日米欧、先進国主導の世界景気、BRCS(除くI)の衰弱と裏腹に~ サマーラリーの構図、ドル高と日欧株高 ~」(2015年6月8日)を参照ください。

 

(3) 日本物価急伸と米利上げで円安が進行しよう

先ず輸出物価から始まったデフレ脱却は、建設積算単価、不動産価格、輸入商品価格、国内外食価格、ホテル室料など広範に広がっている。実質賃金が上昇し、サービス価格上昇が定着するだろう。ESPフォーキャスト(エコノミスト41人によるコンセンサス)によると石油価格下落、消費税増税分の価格転嫁の一巡により2015年央にはCPI上昇率はほぼ0%まで低下するが、2016年末には1.3%まで上昇すると予想されている。日銀の2016年度前半に2%という目標達成は困難だが、デフレ脱却と内需拡大を推進に整合的な物価上昇が想定される。

 

年末にかけての日本の物価上昇率加速、米国の利上げはドル高円安をもたらすだろう。

 

(4) 加えて好需給の日本株

  1. 海外投資家の日本株買いは更に活発化すると予想される。最大の理由は世界的投資難。魅力的投資対象が著しく少なくなっていることにある。世界的長期金利の低迷は世界デフレ懸念というよりは、世界的貯蓄余剰と世界的投資対象不足が原因である。その中で日本株式の魅力度が高まる。2013年15兆円日本株をネットで買った外国人は2014年は8000億円と沈黙したが、2015年に入っても7月までにようやく2.1兆円買い越したところであり、依然日本株式はアンダーウェイトになっている。
  2. 国内公的資金・日銀、GPIF、ゆうちょ銀行、かんぽ生命、年金、保険など組み入れ増加
  3. 国内個人資金 ・・・ 個人もやれやれの利益確定売りを続け2013年12兆円、2014年5兆円、2015年1~7月ですでに5.2兆円の大幅売り越しとなっており、待機資金は巨額になっている。

 

 内外すべての投資家において日本株投資余力は空前の規模になっていると推測される。

 

ストラテジーブレティン140号を参照ください。

 

(5) 底に空前の好バリュエーションが不変であることがある

日本の企業増益率が主要国で最高と予想されていること、日本株式のPBRなどバリュエーションは世界最低であることから、割安さが際立っている。アベノミクス相場が始まって株価は2.4倍となったが大幅な増益により割安感は全く薄まっていない。また元利保証のトヨタ種類株に対する需要の高さは投資家のインカムに対する希求の強さを示している。高利回りが予想されるゆうちょ銀行、かんぽ生命株式のIPOにより、個人資金が市場に誘導される投資ブームが起きる可能性がある。

 

(6) 年末~年度末25,000円にむけ新たな上昇波動に

サマーラリー期待が完全にしぼんだ今こそ、投資チャンスなのではないか。9月末22,000円、年末から年度末にかけて25,000円程度への上昇が想定される。楽観説に異論があるとすれば、その根源は今が歴史的大相場の最中にあることを理解していないことであろう。

 

ストラテジーブレティン131号「素晴らしき2015年、日本本格復活を確信する年」(2014年12月15日)を参照ください。

 

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