2014年10月29日

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ストラテジーブレティン 第127号

消費税増税でも延期でも、株価上昇トレンドは不変

テクニカルな10月株安

10月に入ってからの世界的な株価急落により、9月までの楽観的なムードが一変して世界的なリスクオフの雰囲気になった。しかし今から振り返ると、この10月の急落はひとえにテクニカルなものであったのではないだろうか。図表に見るごとく東証空売り比率は過去最高水準に高まっている。テクニカルな調整が終われば、2015年前半のファンダメンタルズの改善と政策の転換に対する好評価が焦点になる。おそらくドル円に関しても主要国の株式に関しても、年末のラリーから来年の1月以降の上昇に向けてのいい仕込み場が訪れている可能性が強い。

 

 

回復力顕著な米国経済

最大のポイントは、米国経済の持続的な強さである。悲観論にも拘わらず、米国経済の地力の強さはいよいよ鮮明になっている。新規失業保険申請件数は、このところ30万件をずっと下回り続けており、雇用は完全ではないが着実に回復をしていることが明らかである。このところ低迷をしていた住宅販売は、着実に上昇し始めている。そもそも今、米国の持ち家比率は、過去のピークの69%から64%へ大きく下がっており、住宅の供給不足によって、実際に持ち家取得難が起こりつつある。このところの金利低下もあいまって、おそらくこれから、米国の住宅取得の波がやってくる可能性が強いのではないか。

 

また、米国の労働賃金も着実に上昇しつつあり、これまで大きく低下してきた米国の企業部門における労働分配率の上昇が始まっている。景気拡大の後半局面に入り米国の賃金が上昇して、儲かる一方だった企業から、所得の家計部門への配分が増え始めているのだ。ということは、家計は収入が増えることによって、もっと消費をしやすくなる。つまり、住宅あるいは消費によって、米国の経済はこれから成長率を高める場面に入りつつあるというのが、今の状況である。

 

加えて、米国政府の財政バランスが大きく改善し、一時12%を超えていたGDPに対する財政赤字は、2.8%(2014年政府見通し)まで低下してきている。これまで経済の大きな足かせであった、財政削減による需要圧縮効果がなくなって、財政部門が経済に対するネガティブな要素から、ポジティブな要素へと転換しつつあることも好材料である。シェールガス革命の恩恵もある。よって総合的に考えて、米国経済は非常にバランスのとれた拡大局面に移行しつつあることは、もはや疑う余地のない事ではないだろうか。

 

インフレ圧力低下(= 金利低下・原油安)は景気押し上げ要因

確かに、2%というインフレ目標に比べると、ドル高と原油価格や資源価格の下落により物価上昇率はだいぶ低下圧力を受けている。しかし、そのような資源価格や原油の下落あるいは金利の低下などは、むしろ米国家計の実質購買力を高め、更に経済成長を押し上げる要因になることも明らかである。このように考えると、まずほとんど疑う必要のない事実は、米国経済の力強い回復であり、それが世界経済を引っ張っていくという姿であり、これがおそらく年末から来年にかけて大きくクローズアップされるのではないか。

 

政策転換、景気底打ちが展望されるユーロ圏

加えて、欧州では先週末ストレステストが終わり、銀行の過度な信用収縮はいよいよ終わりが見えてきた。金融機関は積極的にリスクをとって、信用を供給する方向にシフトしていくのではないだろうか。同時に、ECBによる量的金融緩和がいよいよ発動する。このところ減速傾向を強めているドイツは、何がしかの形で財政出動を始める可能性が強いと考えられる。更にデフレのリスクに対応して、フランスやイタリアは減税の実施に踏み切るだろう。つまり、過度に強調されていた財政緊縮からバランスのとれた財政出動へと、欧州の政策の軸足が変わることは、おそらく避けられないトレンドだろう。ということは、欧州もリセッションやデフレに陥ることなく、緩やかに成長率が上向くというのが来年前半に見えてくる姿ではないか。

 

円安の価格効果で利益大幅上方修正、遅れていた円安好循環発現へ

日本では、消費税増税のマイナスが一巡し、遅延していた円安のプラス効果が顕在化してくることにより、これから先、景気は大きく改善される場面となる。今の日本企業は、グローバルにおいて価格競争をせず、品質と技術優位の製品を提供しているので、円安になってもドル建ての売値を下げる必要がない。よって、円安になっても輸出数量は増えないが、値段を下げないことによって価格効果、すなわち円安による輸出価格の値上がり効果が非常に大きく顕在化する。この値上がり効果が、企業収益を著しく押し上げる局面に入り、それが企業の賃金・賞与引上げあるいは設備投資・開発投資増加、更には株主に対する還元などの支出と分配に向かうことは明らかである。言うまでもなく円安による数量増加効果と円安による価格上昇効果を比較すると、利益寄与は後者が前者の3倍と著しく大きい(限界利益率がほぼ3割なので)。つまりかつての様に即効性のある数量効果はないが、時間はかかるがより大きな価格効果がこれから発現するのである。

 

輸入代替、設備投資も動意

また最近の貿易の特徴として、特に輸入価格が大幅に上がった中国からの輸入数量が減り始めていることが注目される。つまり、高くなった輸入品から国内生産への代替が起こり始めている可能性が強い。ということによって、日本国内ではむしろ、中小企業が輸入代替によって生産を増やす動きが見え始め、銀行の中小企業向けの設備投資貸し付けが増え始めるというような好循環も見えている。今後、消費税増税のマイナスが終わって円安のプラス効果の顕在化が、経済をむしろ大きく押し上げる局面に入っていくことが予想される。

 

増税でも増税延期でも株高へ

また、来年10月に消費税再増税が行われるとすれば、その前の駆け込み需要も予想されることにより、来年前半の日本の経済は大きく好転していく可能性が強いのではないか。仮に消費税の追加増税が先送りされるとすれば、国内経済失速の心配がなくなり一段と投資・消費意欲が高まり、デフレ脱却をより確信させ、株高はさらに迫力のあるものとなるだろう。なお、消費税増税が延期されれば、海外投資家の財政信任が損なわれ円の暴落、長期金利の急上昇が起きるなどという心配は全くないと断言できる。なぜなら安倍首相がはっきり述べているように、「消費税増税の延期という判断は、それがデフレ脱却をより確実にする道である場合のみなされる」ということに疑問の余地はないのであるから。投資家の関心事はひとえにデフレ脱却が可能か否か、の一点にある。

 

円安持続が鍵

それにしてもカギは円安の持続にある。その点で10月15日に発表された半期に一度の米財務省による議会への為替報告は留意されるべきである。それは、中国や韓国の為替操作あるいは異常な通貨安を名指しで批判すると同時に、この間円安が進行している日本円に対しては一切言及がないということである。むしろ米財務省は、過度な財政緊縮・赤字削減による経済成長への悪影響を懸念しているという指摘があることから、米財務省の更なる円安容認姿勢が明らかである。ファンダメンタルズ面でも円安トレンドは固い。国際マクロ経済学の教えるところは、増税⇒金利低下⇒通貨安、増税延期⇒インフレ圧力の高まり⇒通貨安、つまりどう転んでも円安なのである。

 

このように考えれば、今の大きく売られた株式あるいはドル円は、いい転換点を迎えているのではないだろうか。よって、年末から来年にかけて、リスクテイクのチャンスが再来している、と考えるべきであろう。

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