世界的なリスク資産のテクニカルな調整は終わりつつある。再度リスクテイクの秋が始まる可能性が高い。①順調な実体経済と業績、②潤沢な投資資金、低位安定の長期金利、③政策懸念の鎮静化(政策の不確実性がなくなる)が要因となる。2020年オリンピック東京招致成功はダメ押し的な効果を日本株式にもたらすだろう。懸念されている中国の失速は、景気対策(公共投資の増額、不動産取得規制の運用面での緩和など)により回避されている。昨年11月から今年5月末まで半年で80%の急騰を遂げた日本株式は、9月以降第二弾の上昇波動に入る可能性が高い。2014年央には日経平均20,000円程度に向けて上昇していくと想定される。
先進国主導の景気拡大、米長期金利のピークアウト
QE3(量的金融緩和第三弾)の縮小が議論され始めたこと、一連の金融緩和を主導したバーナンキFRB議長の退任が間近なことから、新興国から資金が流出し大半の新興国で株安と通貨安の悪循環おこり、新興国の景気減速が顕著になってきた。世界経済の新たな牽引車もてはやされたBRICSは経済停滞局面に入った。しかし世界経済を全体としてみれば先進国主体に上向いている。中でも米国と日本の景況感の改善は顕著である。また欧州・ユーロ圏もドイツにリードされリセッションから抜け出した。実体経済と企業業績が好調な上に極めて潤沢な貯蓄=投資資金が存在している。新興国から還流した資金は行き場を失っている。QE3の縮小というイベントが終われば、米国長期金利がピークアウトし、リスクテイク開始の鏑矢となるだろう。
そもそものきっかけは、昨年からの「財政の崖」懸念から抜け出し米国経済が力強さを増し、2013年4月まで1.7%前後で推移していた米国長期金利が4か月余りで3%へと急騰し、投資家がポートフォリオシフトを余儀なくされたことにある。1%台の長期金利も行き過ぎであったが、今後一年以上にわたってゼロ金利がコミットされている中で、3%の長期金利も過剰反応である。次回FOMCでのQE3縮小が決定され、次期FRB議長が絞られて(最有力とみられたサマーズ氏が辞退、ジャネット・イエレン氏の確実性が高まった)来れば、政策不確実性の解消とともに長期金利は2.5%以下まで低下していくだろう。その結果投資資金は株式などのリスク資産へ押し出されていくだろう。
図表1:米国長期金利と株価(日本/米国/ブラジル)
図表2:OECD 景気先行指数
好調な米国経済世界を牽引
米国の2013年第二四半期GDP伸び率改定値は年率2.5%と速報値の1.7%から大幅に上方修正された。リーマンショック後の景気対策として続けられた給与税減税の停止(=増税)があったものの消費は1.8%と好調を持続した。加えて設備投資4.4%増、住宅投資12.9%増、輸出8.6%増と待たれていた投資主導の経済拡大局面に入りつつある。企業収益第二四半期は4.2%増と絶好調が続いている。税引企業利益対GDP比率は10%と過去最高水準で推移している。減税の停止などによる政府部門のマイナス寄与がなければベースライン成長は3%台にのってきている。いよいよ本格的な持続的成長軌道入りしたとみられる。住宅セクターの改善とともに米国家計が保有する純財産額は70兆ドル(家計可処分所得の5.3倍)と過去最高水準となり、アニマルスピリットを大きく鼓舞している。その中で財政赤字が驚くべき改善を見せている。連邦財政赤字の対GDP比率は2009年10-12月期に10.2%でピークを付けたが、2013年4-6月期は4.3%まで低下した。この急激な改善幅は過去最大である。景気回復と増税による税収の回復、国防支出、社会保障支出などの歳出の削減が寄与している。
図表3:米国自動車販売、戸建て住宅販売
図表4:米国企業利益対GDP比率推移
図表5:米国家計の資産、債務、純財産の推移
図表6:米国財政収支 欠損/剰余対名目GDP比
唯一問題なのは、雇用情勢の回復が極めて緩慢なことである。9月第二週の新規失業保険申請件数は29万人と過去の好況局面に匹敵する水準まで低下している。また失業率も8月は7.3%と2009年の10%から低下してきてはいる。しかしこうした改善の多くは労働参加率の低下(求職をあきらめた人の増加)によるものであり、就業者対総人口比率はリーマンショック前の66%から61%まで低下したままでほとんど改善していない。つまり企業は潤沢な利益をあげながら、それを雇用増という形で十分に経済に還流させていないのである。
図表7:米国新規失業保険申請件数
図表8:米国労働参加率、就業比率
更に企業は空前の貯蓄余剰状態、つまり利益が好調なほどには投資を積極化せず、資金を手元で余らせている状態にある。その原因は、インターネット・IT革命とグローバリゼーションが歴史的生産性上昇をもたらしているからである。たとえばアップルは空前の利益を得ているのに、米国内では全く雇用を増やさず、経済成長に貢献していない。この人と資本の余剰を潜在需要のあるサービス部門に移転させて活用すること、そうした大作戦が緩やかだが着実に進展している。ここに超金融緩和=QEの必要性がある。QEが終わるのは雇用が十分に増えたときであり、それは2014から2015年になってからであろう。
図表9:米国企業の資金余剰
図表10:米国 雇用、生産性のパラドックス(製造業は高生産性かつ雇用減)
日本経済好循環入り
日本においてもアベノミクスと黒田氏による新次元の金融緩和の登場により、困難の歴史が塗り替えられつつある。2013年4-6 月期の GDP 統計において、名目 GDP と名目賃金の上昇基調、 物価下落の終了が確認された。名目成長率は0.9%(年率3.7%)と実質成長率と同等となり、名目 GDP 成長率が長期金利を大幅に上回ったことで、実体経済と資産価格の間の好循環が実現しやすくなっている。消費税が予定通り引き上げられれば、駆け込み需要とその後の反動は減が避けられないが、景気の落ち込みは回避されるだろう。むしろ5兆円と伝えられる景気対策に法人税減税などが含まれれば、市場にポジティブサプライズ与える公算もあろう。
図表11:日本名目・実質GDP成長率推移
図表12:日本コアCPI、給与総額、企業向けサービス価格
図表13:日米鉱工業生産推移
図表14:日本の銀行貸出残高推移
また円安と資産価格上昇により企業利益も急伸している。2013年4-6月期の上場企業の連結経常利益が前年同期比4割増加、特に自動車などの輸出企業では販売回復と円安の効果がでたほか、高額品の売れ行きが好調な百貨店、マンション販売好転、オフイス賃料底入れの不動産、企業物流活発化の運輸業等内需関連も好調で、非製造業の利益は金融危機前を上回り過去最高水準になった。製造業の業績が上向いて人やモノの動きが活発になり、国内景気にプラスの作用が広がるという好循環が実現されつつある。90円台前半と推定されている円レートが100円になれば製造業では更なる上方修正が見込まれ、2014年3月期通期では過去最高利益になる可能性が出てきた。ちなみに大手輸出企業20社の為替変動影響額は対ドル/ユーロ1円変動で、2%弱の影響が試算されている。10円のレート前提の変更は20%の増額修正要因になると考えられる。
世界中で唯一、日本が長期デフレに陥ったのは、異常な円高と資産価格下落が長期下落(土地+株式時価総額は3140兆円から1500兆円へ)と言う、日本の歴史的特異性にあつたが、それはすでに転換した。あとは15年続いた賃金下落が終わるかだが、賃金は生活給であることを認識している日本の企業経営者は物価上昇以上の賃金上昇を行うことになると予想される。つまり失われた20年が終焉する確実性が著しく高まったのである。
リセッション脱出・危機終焉の欧州、小康の中国
欧州経済はリセッションから脱却し、金融危機は終焉した。南欧諸国のリストラと過剰消費の抑制により、禍の根源であった各国経常赤字は大きく改善している。ドイツ、ECBの支援もあり各国の長期金利は急低下している。ECBの南欧支援の重荷は軽減されECBの総資産は大きく圧縮されている。経済成長復元と今後予想されるドル高=ユーロ安は輸出環境をも好転させ、好循環の引き金になるだろう。ドイツのユーロ堅持、南欧支援の決意は固い。メルケル政権の信任が維持されている中での22日のドイツ選挙が終われば、ユーロや金融市場での不確実性がまた一つ消滅するだろう。
懸念されている中国の失速は、景気対策(公共投資の増額、不動産取得規制の運用面での緩和など)により回避されている。景気失速を回避するための過剰投資、過剰信用を増額しての成長だけに、中長期的には安心できないが、強い権威を持つ当局のコミットメントは短期的には経済を安定化させるだろう。
図表15:欧州諸国の長期債利回り推移
図表16:欧州諸国の経常収支対GDP比率推移
復元するゴルディロックス投資環境
空前の企業収益、空前の資本余剰(=低長期金利)、著しく緩慢な雇用増加、の主因は生産性革命にある、この労働と資本の余剰を吸収し新規需要を創造するには、株高が必須である。余剰資本は金融市場においてリスクテイクを強め株価を押し上げ、実体経済においてよりリスクテイクを強め設備などの長期投資に向かわなければならない。そのためには空前に開いている株式のリスクプレミアムの圧縮が必須であり、やがてFEDモデル復活(=債券と株式市場の裁定関係の復活)をもたらすことになるだろう。それは相当のPER上昇に帰結するだろう。・・・後日詳述
誰がFRB議長になろうと米国の、余剰資本を株高を経由して需要創造=成長に結びつける政策体系は変わらないと見てよい。